少女マンガ的恋愛


 

カメ子とストーカー

 露出した後ろ首、白い肌がじりじりと太陽に焼かれる。じりじり、ね。太陽の光以外のじりじりも感じたりしてね。もう秋だし。残暑っていっても、夏真っ盛りよりは陽射し強くないはずでしょ。なんで夏休み明けてじりじりが強くなってるのって…  ストーカー、ですよ。  自分で言うのもなんだが、自分は可愛い顔をしている。大きなタレ目に、小さな鼻と口、サラサラのおかっぱ頭。色は白いし、声は高いし、背は高く無い。高校までは、学ランを着ていたけど、私服ではだいたい女に間違えられたし、今じゃ学ランは着ないから、やっぱりだいたい女に間違えられる。  女顔の自分は、あまり異性にもてない。可愛いと愛玩されても、恋愛には発展しない。バレンタインもおねぇ様方からたくさんのチョコを貰っても、本命はあったのか無かったのか。学ランを着ていたし、共学だったから、同性からのアプローチもほぼ無し。もしかしたらイケメンとばっかりつるんでたからアタックできなかっただけかもしれないけど、そんなの知らない。  まあ、つまり。自分がモテると思ったことなんて無かったのだ。しかし、大学生になってからアレが来た。所謂モテ期が。  入学してすぐに、先輩に囲まれるようになった。幻十郎は18歳。相手は大体4年生だから22か23。中高生の頃は年上好きだった女の子も、精神年齢が上がるごとに年下もいけるようになるとかなんとか。それから男子、制服が無くなって、親元を離れたりバイトを本格的に始めたり、様々な環境に身を置く中で、性別の垣根を飛び越えることがあるんだとか。つまり、ここに来て男女からモテ期がきた。  人に好かれるのは別に良い。セクハラされたら抗議はするし、告白されたら振るけども。夏休み前まではちやほやされるだけだったし。変わったのは、夏休みを明けてからか。  夏休みの間、高校からの友人である藤本陽のお父様であるカメラマンの藤本陽一について、カメラの修業をして各地を回っていた。それが終わると陽と、これも高校からの友人である白鳥美千代と旅行に行って、ほとんど家に戻らなかった。  初めはメールが届いた。知らないアドレスから届いた「中村です。こばちゃんからメアド聞いたんだ。君と仲良くしたくて。返事待ってる。」と馴れ馴れしいそれを、たくさん届く出会い系の迷惑メールの一つだと思った。こばちゃんって誰だよ。 「今どこにいるの?」「最近家に帰ってないよね。誰と一緒に居るの?」次の日届いたメールも無視した。メールはだんだん増えて行って「無視しないで」「無視されるなんてひどい」などとこちらを非難する内容が含まれるようになったが、迷惑メールなんて概してそんなものだ。無視した。  それから、一日30件ほど同じような内容のメールが同じアドレスから送られてきた。こんなに送って来たら本気で返す気なくすよ。てか、うそっぽいよ。まあ、最初からうそっぽかったけど、もう少し頭使おうよ。なんて思って受信拒否した。  「小林です。ナカからメール届いたと思うんだけど?」今度は違うアドレスからメールが着た。もしかしてこばちゃんか。何だこの連携。受信拒否した。  「こばちゃんとナカのメール無視してんだろ。無視とかマジムカつくんだけど。」  知るか、お前は誰だ。受信拒否した。  そして家に帰ってみれば、両親と妹が戸惑った顔で迎えてくれて、約一か月の不在の間に溜まった手紙を渡してきた。  一日一枚づつポストに入れられた手紙には切手が無い。最初の方は長い文章で思いを綴っていたものが中盤には短文になり、後半には同じ言葉を繰り返し羅列するようになる。  「好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに好きなのに」  そんなの知るか。  ちなみに差出人は全部中村信夫。そこで、やっとストーカーというやつだと気が付いた。  だがしかし、危機感を感じなかった。だって、メールは拒否してるからもう来ないし、手紙は一日一枚で、そこまでの被害だとは感じない。電話番号は知らないようで、ケータイにも家電にもかかってこないし。 「兄さん、手紙なんだったの…?」  妹の貞子が心配そうに聞いてきた。自分と同じ死んだ目しかできないと思ってたのに、心配そうな表情とかできたんだね。 「熱烈なラブコールだったよ。」 「…大丈夫なの?」 「うーん。良く分かんない。」  そう、その時は良く分からなかったのだ。でも、今は分かる。これはストーカーだ。  9月某日。天気が良いからちょっとそこまで、最寄駅から二駅行った先にある公園で、影木幻十郎はカメラ片手に被写体を探していた。そこで、じりじり来た。いや、今日は特に強く感じるだけで、本当はもっと前から感じていた。家に帰ってから数日、外に出ればすぐに視線を感じた。最初は気のせいかと思ったが、窓から外を見た時にちらっと姿が見えたから多分中村だ。ちなみにここで分かったことには中村は男だ。幻十郎は腐男子だが、ホモではない。お断りが確定した。まあ、女でも断るんだけど。それにしても下手なストーキングだ。カメ子舐めんな。  それから、暗くなるまで外出しない、なるべく人の多い場所にいる、など気を付けている。今も休日の森林公園で、太陽光はさんさんと降り注いで、親子やカップルの楽しそうな声がどこにいても聞こえてくる。ストーカーの視線さえ気にしなければとてもいい気持だ。幻十郎は木陰に横になって、目を閉じた。 ******  腹部に重さを感じて目を覚ました。目を開けると、男が幻十郎に馬乗りになってにっこり笑っている。笑っているのに、目の奥が濁っていて、気持ち悪かった。 「おはよう、よく眠れた?」  ねっとりした猫なで声。 「…中村?」 「ダメだなぁ、先輩を呼び捨てにしたら。でも、幻十郎君だから許してあげる。」  逆光で男の顔色は良く見えないが、黄味がかった肌色に影が差して、汚い黄土色に見えた。  やばいこいつ、目が逝ってる。幻十郎は逃げようとするが、両手首を押さえられて身動きが取れない。そもそも、自分はそれほど力がある方ではないし、自分より一回りデカい男にマウンドポジションをとれれたら勝てない。しかし、まだ日は高いし、すぐ近くで人の笑い声が聞こえる。 「うわぁああっ!!!」  とりあえず悲鳴を上げれば何とかなる。幻十郎は叫んで相手が怯んだすきに逃げようと思ったが、中村は放さない。 「いや、そこは放せよ!!」  仕方がないから頭突きして股間を蹴って逃げた。頭痛い。  広場を走り抜けて、池にかかる橋を渡る。助けを求めながら逃げるのに、誰も助けに入らないのは自分たちが全速力で走っているからか、じゃれ合いにしか見えていないのか。  力は無いが、体力には自信があった。伊達にカメ子やってない。でも、いつもは追いかける側だから、追いかけられる側になるとプレッシャーが違う。しかも相手は男だ。自分の容姿を考えれば確実に掘りに来る気だ。マジ勘弁。  幻十郎は必死に逃げた。足に自信はあるが、相手がどこにいるのか振り向いて確認する余裕はない。確認するのは怖い。振り向いたら終わりだと思った。怖い。  汗と一緒に涙が出てきた気がする。ダメだ、視界が悪くなる。嗚咽で息が切れるのもダメだ。ああ、どうして心臓が痛くなるまで走らなきゃいけないのか。ホモは好きだけど自分がホモになるつもりは無いんだよ。ホモくれよホモ。――あ、落ちる 「――危ない!」  下りの階段で足が縺れて、頭から落下しそうになって、後ろから引っ張られた。 「ひっ!?」 「あ、バカ!」  中村かと思って、飛び退くと、またバランスを崩しそうになって、今度はしっかり抱きしめられた。後ろから胸に回された腕は細く白く、黄土色の中村のものとは全く違った。呼吸の整わないまま、一段上にいるその人を振り返る。あ、美少女だ。ぜんぜん中村じゃない。  アッシュ系の淡い色の、耳下までのソバージュへ―アー。大きなタレ目がちの瞳は幻十郎と似ているが、瞳は幻十郎と違って、きらきら輝いている。すらっとスタイルが良くて、ハイウエストのスキニ―ジーンズが良く似合っている。女性にしては背が高く、階段でなくても幻十郎より背がありそうだ。 「…大丈夫?」  彼女は凛々しめの眉を微かに寄せ、幻十郎の目じりを細い指でなぞった。やはり少し泣いていたらしい。 「~~っ、幻十郎!!」  唾と一緒に吐き捨てるような汚い声で名前を呼ばれて、幻十郎の肩がびくっと跳ねた。 「やっと、追いついたぁ…。なんで逃げるのかなぁ?話をしようとしただけなのに。」  にたぁ、と笑った顔が気持わるい。幻十郎は鳥肌の立った腕をさすってきっぱり答えた。 「お断りします!」 「は?」 「お断りします!」  笑みを消して低い声で聞き返されて、裏返り気味の声でもう一度断る。 「貴方の気持ちには応えられません、諦めてください。」 「何言ってるの?応えるも何も、君は俺のことをそんなに知らないでしょう?これから知っていくんだよ。」 「いりません。無理です。」 「どうして?俺が男だから?君は性別で俺を否定するの?」 「違います。それもあるけど、生理的に受け付けません。」 「生理的に、とか言われても納得できないんだけど。」  じりじりと距離を詰めてくる相手と距離を取るために幻十郎も後退する。先ほどの女性も一緒に階段を下りてくれるが。これでは巻き込みかねないと思い、目で訴えるが、彼女は無視して中村を睨みつけていた。 「と、突然メールをされても困ります。」 「ちゃんとこばちゃんからメアド聞いたって言ったじゃない。」 「こばちゃんとか知りません。あだ名で書かないでください。そもそも小林さんを良く知りません。勝手にメアドを広められたら迷惑です。迷惑メールだと思いました。あと文章が馴れ馴れしくて気持ち悪い。メールの数も気持ち悪い。無視を非難されても知るか、気持ち悪い。」 「それは、俺だけが悪いのかなぁ?勝手に無視したのはそっちでしょ?文章は先輩から堅苦しい文章が来たら緊張すると思って、砕けた感じで送ったんだけど、お気に召さなかったのかな。メールの数が増えたのは、返信が無いから、無視を非難するのは当たり前じゃない?」 「手紙の内容が気持わるい。毎日付きまとってくるのが気持わるい。話し方が気持わるい。目が気持わるい。」  気持ち悪いを連呼するうちに本当に気持ち悪くなってきて、酸っぱいものが込み上げてきた。 「手紙には愛を詰め込んだつもりだけど。毎日見守るのも愛。話し方は優しく話しているつもりなんだけど。」 「とにかく、無理です。」  声が震える。 「どうして。」 「だから!」 「――つまり」  女性にしてはハスキーな声が会話を遮った。  いつの間にか石の階段を降り切って、土の上に立っていた。先ほどの女性が幻十郎の肩を引いて、背中に庇う。 「生理的に受け付けないんだってさ。これだけ、気持ち悪いって言ってるんだから、相性が悪いんだよ。仕方ないじゃない。諦めなよ。」  彼女が好戦的に見あげれば中村が視線を受け止めて、すぐに手が届く位の距離まで詰め寄った。 「あんた、誰だ。」 「通りすがりだけど。」 「関係ないやつが口出すなよ。」 「関係あるよ。あんたムカついてる当事者だもん。」 「は?」 「ほんとしつこい、気持ち悪い。逃げる相手を追いかけるな!好きな相手を泣かせるな!振られたならさっさと諦めろ!」 「でも、俺は彼を愛してる。」 「知るか。愛してるなら押し付けるな。」 「最初は可愛いと思った。夏休み前まで毎日声を掛けて。休みの間会えないのが辛くて、恋をしているのだと気が付いた。」 「なに語ってるの?そんなの知らないよ。」 「~~っ!」  瞳孔を開いた中村が女性に手を挙げる。彼女はそれを屈んで躱すと、地面についた手を軸に、パステルグリーンのスキニ―ジーンズに包まれた足を高く挙げて彼の顎先を蹴り飛ばした。そして白目を剥いた中村に一言。 「正当防衛。」 「幻十郎さん、ストーカーされてるの?」  久々に会った従弟の診が無表情で聞いてきた。ちなみに彼はストーカーのプロだ。彼の恋人に同情を禁じ得ない。 「ああ、あれ。終わった。」 「そうなの?」 「通りすがりの人が物理で黙らせて、白鳥が社会的に黙らせた。」  世の中捨てたもんじゃないね。





 

カメ子と彼女

「――大丈夫?とりあえず警察呼んだけど。」  ストーカーを蹴りとばした彼女が幻十郎の顔を覗いて言った。わざわざ屈んで斜め下から覗き込むなんてあざといなぁ。 「え、あ…はい。あ、ありがとうございます。助かりました。」 「あー、もう!こんな可愛い子追い詰めるなんて信じられない!!」  慌てて幻十郎が頭を下げると、ぎゅっとその頭を抱え込まれる。 「うわっ、ちょっと、僕男なんですけど!」 「?僕も男だけど。」 「え、は!?」 「あれー、っかしいな。今日は別に女っぽい恰好してるわけでもないと思うんだけどなぁ…」  パステルカラーのハイウエストスキニージーンズは十分女らしい格好だと思う。 「女声も出してないよね?」 「あ、それは女性にしてはずいぶん低い声だな、と思いました。」 「そうだよね。良かった。女声出し過ぎて地声変わっちゃったかと思った。あ、でも地声で女に見えるんだ。じゃあ今度から無理して高い声出さなくても良いや。」  うふふ、と笑う彼女――間違えた、彼は仕草一つ一つがやはり女らしい。 「あ、あの。」 「ん?なに?警察くるまではいるよ?」  見た目は女性らしいのに考え方は男らしい。かっこいい。 「いえ、お礼がしたいので連絡先教えてもらえますか。」 「え、そんなの良いのに。でも、そうだね。この男がまた何かするとも限らないし。連絡先知ってもらった方が良いね。」 「そんなつもりじゃ、」 「良いの良いの。僕が気になるの。君、名前は?」 「影木幻十郎です。」 「顔に似合わず男らしい名前だね。」 「良く言われます。」 「うふふ、僕は石松成人。みんなナルって呼ぶよ。宜しく、幻十郎。」  嫌な汗でぬれた幻十郎の肌をさらっとした風が撫でて行った。太陽はさんさんと輝いて、植木が緑の葉を揺らす。さぁぁ、と音と共に木漏れ日が揺れて、チーチー野鳥の声が聞こえる。  肌を焼く視線が消えて、最高の日和に変わった。 ******  影木幻十郎、山百合大学医学部一年。白鳥美千代、山百合大学法学部。藤本陽、山百合大学経済学部。高校でできた友人は、学科は別だが同じ大学で、時間が合えば一緒に昼食をとっている。学科に友人がいないわけではないが、彼らを見ていると腐男子的な意味で心が潤うのだ。 「影木、彼女出来たのか?」  改装したばかりの綺麗な学食で、美千代が聞いた。彼は、大手財閥の跡取りでその権力でもって、例のストーカーを社会的に追い詰めてくれた友人だ。ピンと伸びた背筋に、綺麗な箸の運び、服装や持ち物などパッと見はごく普通の大学生だが、所作が育ちの良さをにおわせる。 「え、何の話?」 「ほら美千代、言ったじゃない。影木が俺達に内緒で彼女とか作るわけないって。」  そう言ったのは陽。中学でも高校でも信者を大量に作った絶世の美少年。もちろん大学でも信者を製造中。本人は不本意らしいが。 「いや、別に報告の義務はないだろう。」  友人が少ないがゆえに、ずれた感覚をしている陽に美千代がツッコみを入れた。だれか信者じゃなく普通の友人になってあげて欲しい。彼は友情に飢えている。 「どこからそんな話が出てくるの。」 「光から。」  光は陽の弟だ。和風美人の陽とは別ベクトルで大変見目麗しい彼だが、こちらは友人をつくるのが美味い。その才能を陽に分けてあげて欲しい。 「光は巧太郎から、巧太郎は若林さんから。」  巧太郎は光の自称親友。若林さんは巧太郎のクラスメイトで幻十郎の腐友だ。 「若林さんが、先輩に勉強教えてもらうために図書館にいったら影木と女の人が仲よさげに勉強してるのを見たって。それを巧太郎伝いに真相を確かめてほしいと。」 「なに、若林さんってそうなの?」  陽の話を聞いて美千代が訊ねた。  そうなの?と聞かれた陽は意味が分からずにきょとんと首を傾げる。そういう仕草が信者を増やすのだ。 「影木のこと好きなのか?」 「いや。違うと思う。」  陽のために直接的に聞いてきた美千代に幻十郎は首を横に振った。彼女はただの腐女子だ。 「その図書館にいたの、女の子じゃないよ。男の子だよ。この前助けてもらったって言った。」 「あー…。その後どう?大丈夫?」  ストーカーのことを言えば二人は神妙な顔つきになった。美千代は高校の時男に襲われたことがある。そのときは陽が助けに入ったが、教師が絶句する惨状になったらしい。幻十郎はそんなことにはならなかったが、彼は自分と重ねてしまったようで、親身になって解決してくれた。 「おかげさまで。」  幻十郎は暗い表情になる美千代を安心させるように微笑む。 「それで、ナルが――あ、そのこ成人って言うからナルね。ナルが来年ここを受験するっていうから勉強につきあってたんだ。学科は違うけど、専攻科目以外の試験はみんな一緒だからね。」 「じゃあ、そう言っとくね。」  顔色が悪くなったままの美千代の手を握って陽が答えた。 「うん。若林さん喜ぶと思うよ。」 「あれ?若林さんってそうなの?」 「うん。」  再び訊ねてきた美千代に今度はYESと答えると、そのやり取りに、また陽がキョトンとしたので美千代はその頭を撫でた。可愛いから仕方ない。  石松成人、公立車百合高校3年。田中雅彦、佐藤裕介、鈴木真琴、私立白鳥高校3年。中学でできた友人は、学校が別になっても、志望大学が違くとも関係は途切れなかった。気が向けば誰かの家や、外で会い、他愛ない時間を過ごしている。 「石松、彼女出来たの?」  今時珍しい木造アパートの一室で、家主不在の中勝手にお茶をしばいでくつろぐ受験生四人。うち一人、さらさら髪の真琴が成人に尋ねた。一応机の上にテキストを広げているが、今は休憩時間だ。 「は?何言ってるの?」 「ほら、お前ら言っただろ。石松は態さん一筋だって。」  そう言ったのは雅彦。一番背が低くて童顔だが、この中で一番しっかりしていて常識人なのは彼だろう。 「えー、だって王司が駅前のマックでおかっぱ頭の可愛い子と一緒に居るの見たって言ってたし。俺と一緒にそれ聞いた山瀬さんが歯ぎしりしてたし。」  ふわふわ髪の裕介がぷくっと頬を膨らませる。もとより高い声も合わせてあざとさ100%だ。 「あの人、ホント女好きだな。」  人の趣向にあまり口を出さない雅彦が呆れた声を出した。成人の学校の先輩である山瀬千尋は男の恋人がいるのが信じられない程度の女好きだ。 「ああ、幻十郎さんのことか。」  成人が言った。マックでおかっぱと言えば彼の事だ。 「幻十郎?」  裕介が繰り返した。 「名前のとおり男です。」 「石松はやっぱり可愛い男の子が良かったのか。」  やっぱりってなんだ、真琴。 「どうしてそうなる。」 「そういえば前、山瀬さんと石松が浮気してるって騒いだなぁ。」  裕介が思い出したように言った。嫉妬した態をそそのかして初めて濃いキスをしたことを思いだして成人の頬がぼっと赤くなる。 「ナルナル可愛い~」 「うるさいよ。というか、それ君たち関係なかったでしょ。」  成人はちゃかす真琴をきっと睨みつけた。 「騒いでいたのは優斗さんと圭斗さんだな。」  田中が言った。優斗と圭斗は態の友人だ。あの二人の愉快犯は面白いと思ったことは何でも広めてしまう。 「人は自分と違う匂いの人、似てる顔の人に惹かれるらしい。」 「じゃあ石松はやっぱり可愛い男の子が良かったのか。」  裕介のどこから得てきたのか知らないうんちくに、真琴が前の台詞を繰り返した。 「僕は熊が好きだよ。」 「知ってる。」 「知ってる。」 「知ってる。」  トリオが声を揃える。 「知ってることを知ってる。」 「ただいま。」  成人が答えると、丁度家主が帰って来た。 「だって、態さん!」 「愛されてますね。」 「お邪魔してます。」  裕介と真琴が問答無用で彼を会話に巻き込んで、良心雅彦だけが唯一まともに挨拶をする。 「お帰り!熊!」 「いや、何がだよ。」  部屋を勝手に使われるのはいつものこと。トリオの態度もいつものこと。態はとりあえずじゃれてきた恋人を受け止めた。 ******  幻十郎と成人は今回は奮発して、スタバにきていた。小さな丸いテーブルを挟んで向かい合う。 「ナル可愛いから女の子と間違えられてたよ。」  暑い日こそお腹を労わって温かい飲み物を飲まないと!が身上の幻十郎は湯気の上がるチャイラテを一口、口に含んでその甘さと、甘さの中にほんのり香るスパイスにほっと息を吐く。 「まあ、普段から女装してますしね。」  暑い時は欲望のままに冷たいものを飲む!が身上の成人の注文は、マンゴーパッションティーフラペチーノ。さっぱりして甘すぎない美味しさにきゅーっと口角が上がる。 「そうなの?もしかしてそっちの人?」 「そうですけど、彼氏一筋なんで安心してください。」 「いや、それは別に良いんだけど。でも、え、はー…」  前に今日は別に女っぽい恰好してるわけじゃない、とか、女声も出してない、とか言っていたのはそういう事か。というか、身近にホモいっぱいだ。腐男子にとっては天国だね。 「幻十郎さんも可愛いから女の子と間違えられてましたよ。僕も浮気を疑われました。」 「え、彼氏さんに?大丈夫なの?」 「彼氏関係ないです。友達に『何お前、浮気してんのー?』にやにや。みたいな。」 「そうなんだ。」  それを聞いて幻十郎も安心する。 「幻十郎さんは年上の友人です。」 「うん。ナルは年下の友人。」





 

カメ子と勉強会

 私、山瀬千春と彼、影木幻十郎の出会いは、そう、中学二年の夏、兄と学園のプリンスの昼休みデートを覗き見しているときだった。私と同じく覗き見していた彼と植木の影で出会ったのだ。それから、中学を卒業するまで一緒に兄とプリンスのデートを除き続けた。昼休みだけでは飽き足らず、学校内での目撃情報を報告し合い、我が家でのお家デートを実況し、外出先にもこっそり付いて行った。  彼のことを意識したのは同じ年の秋。何の気なしに旋毛を擽ったときの反応が可愛かったのが理由。普段澄ました顔で、感情の起伏があまり表に出ない彼が慌てたのが可愛かった。普段ホモ相手に淫靡な妄想をしまくっている彼の初心な反応が可愛かった。  それから、好きなんだと自覚したのがお遊びの合コンで絡まれているのを助けられた時。可愛い顔して男前なんだからときめかないわけがない。  でも好きと自覚しても、恋人になりたいとかは思わなかった。だって、恋人になってもやりたいこととか無いし。デートは兄の尾行で同じようなことをしているし、メールと電話もホモの報告で頻繁にしている。大学は違うが同じサークルに入っているし、キスやら何やらをしたいとは考えたことが無い。  しかし…この気持ちは何だろう……  先日後輩の若林春香と見た光景を思い出す。年代を感じるが、丁寧に使われていることが分かる木造の丸テーブルに隣り合って座る幻十郎と知らない女性。幻十郎は女性に勉強を教えているようで、参考書やノートを覗き込む時のその距離の近さに、心臓が嫌な音を立てた。 ――♪  小鳥のさえずりの着信音が鳴る。この音は樹海ガール若林春香の着信だ。千春はベッドに寝転んだまま充電コードを引っ張りケータイを手繰り寄せる。 『千春先輩、千春先輩!』  出れば可愛らしい声でハイテンションに呼ばれた。はい、千春です。 「…もしもし、どうしたの春香ちゃん。」 『おや、お決まりのバカ林が出ませんね。』 「……どうしたのバカ林ちゃん。」 『若林であります!この前千春先輩と見た人、影木さんの彼女じゃありませんでした。男の人でした。』  その言葉を聞いてついさっきまでどんより曇っていた千春の顔が血の色を取り戻し、ぱっと瞳に星が散る。 「それは!」 『今一度見なければ!』 「『腐女子として!!』」  美千代と陽と幻十郎の三人組は人目を惹く。幻十郎と陽は、そろって艶やかな黒髪に、大きな瞳、瞬きで風がおこりそうな長い睫毛を持って、肌は白く陶器のごとくきめ細かい美しい容姿をしている。それに対して、美千代は醜くは無いが秀でた容姿と言う訳でもない。陽はオーラが綺麗だなどと表現するが、言ってしまえば雰囲気イケメンというやつだ。美千代単体では目立たないが、三人になると大変目立つ。  大学に入学してすぐのころは、可愛い系と綺麗系で両手に花な美千代に、うらやむ視線ややっかむ視線を送る者が多かったが、美千代の身の上が広まってからは「御曹司のハーレムだから仕方ない」という馬鹿げた納得の仕方をされた。しかし、美千代の恋人は陽ただ一人だ。  美千代から見た幻十郎とは、1に腐男子2にカメ子3に腐男子。とにかく腐っている。間に挟んだカメ子だって被写体は大体二人組の男だ。美千代は幻十郎によって腐というものを知ったし、陽とセットで散々餌食にされた。幻十郎は男同士の恋愛が好きだが、彼自身は男に興味は無いらしい。しかしだからと言って女と一緒にいてもそれは腐った仲間で、そう言った話は聞いたことが無かった。大学に入ってからの交際の申し込みをことごとく断っているのも知っている。だから、今回の彼に彼女がいるなんて話には本当に驚いた。まあ、誤解だったわけだが。  その彼女改め幻十郎の恩人であるナルの友人が、次の勉強会に参加したいということで、美千代と陽も誘われた。幻十郎一人で複数の面倒を見るのは大変だろうし、ナルに興味もあったので了承した。 ******  雅彦、裕介、真琴は、赤レンガの外壁をした図書館に併設された駐輪場の前で立ち止まった。 「どうかした?」  前を歩く成人が三人を振り返る。 「いや、見覚えのあるバイクだなぁと。」 「これ、お高いのよ。」 「こんなの乗ってる人なかなかいないぞ。」  もしかして、と三人は顔を見合わせた。  集合場所である図書館の風除室のベンチで、幻十郎と子猫の写真集を広げる陽の肩に凭れて、美千代はうとうと微睡んでいた。ベンチは硬いが、館内の冷気と外の熱気が混ざった空気は美千代の好みで心地がいいし、観葉植物の緑は目に優しい。慣れた陽の体温と匂いに安心して、眠くなる。重くなった瞼を抵抗せずに閉じると、支えるように陽の手が美千代の頭を包み抱き込んだ。本格的に寝かせる気か。 「「「あ」」」 「あ?」  ほぼほぼ夢の世界に入っていた美千代は、耳になじみのある声にパッと目を覚ました。 「やっぱり!美千代さん!」  短髪のどんぐり眼に黒縁眼鏡の少年が駆け寄ってくる。 「久しぶりだな。雅彦。」 「お久しぶりです!」  雅彦の後ろから裕介と真琴、それからソバージュヘアーの快活そうな少年が入ってくる。 「こんにちはナル。」  その人に幻十郎が声を掛けた。 「友達って、お前たちのことだったのか。」 「あれ、知り合い?」  トリオと親しげに話す美千代に幻十郎が訊ねる。 「雅彦は俺の子分で、裕介と真琴は雅彦の子分だ。」  彼らとは幼稚園からの仲で、三人の親は白鳥財閥と友好関係にある会社の重役だ。その関係もあって小さい頃から家族ぐるみの付き合いをしている。 「田中がこんなにテンション高いの初めて見た。」 「「悔しくなんてないわ。」」  成人の台詞に祐介と真琴がわっと雅彦に泣きつく。相変わらずトリオは仲が良いらしい。 「お前ら、よく外でそこまでいちゃつけるな。」 「べ、別にいちゃついてません…っ。お前ら離れろ!」  美千代が素直な感想を言うと雅彦が慌てて二人を振り払った。 「美千代さんが変なこと言うから雅彦がてれちゃったじゃないですか!」 「というか、美千代さんと陽さんだってさっきから距離近いですからね。」 「これはベンチが狭いからだ。」  言いながら立ち上がり、館内に移動した。 「人増えてるね。」  横髪だけ外に跳ねたポニーテールの千春が細いタレ目を輝かせて言った。 「そうですね。」  緩くカールする髪を耳の下で二つに結った春香がこちらも目を輝かせて答えた。 「彼はイケメンバキュームかなにかかね。」 「吸引力の変わらないただ一つの腐男子。」  小声できゃっきゃと燥ぐ二人。その二人の横で巧太郎は遠慮がちに手を挙げた。 「あの、なんで俺が連れてこられたんでしょうか。」  聞かれた千春が春香を見る。彼を連れてきたのは彼女だ。視線を受け取った春香は巧太郎を見てにんまぁ、と笑った。その目を見て巧太郎の背に悪寒が走る。これは良からぬことをたくらむ目だ。逃げなければ!巧太郎はガタンと、音を立てて立ち上がり、観察対象に突撃する。 「助けて!陽さん、美千代さん、幻十郎さん!!」 「あ、ちょっと三反田くん!!」 「良くやった三反田くん!!」  千春と春香の声が彼を追った。 ****** 「勉強会人増えたなぁ」  別れ際、美千代のバイクの後ろに座った陽が言った。 「巧太郎は何だったんだろう。」  陽にヘルメットを渡しつつ、美千代は乱入してきた彼を思い出す。とにかく若林さんから距離を取ろうと陽と美千代と幻十郎を盾にしていた。 「若林さんは山瀬さんの大学狙ってるらしいから二人が一緒なのは分かるけどね。連れてこられたって、どっちかと付きあってるのかな。」 「なんでも色ごとに持ち込むもんじゃないよ。」  陽の言葉に幻十郎はいつも通り起伏の無い口調で返す。 「そうだよね。」  それに陽も何も思わずにそう答えた。  一人バスで来た幻十郎は二人に別れを言って歩き出す。二人はその背を見送った。そうしたら、幻十郎は真直ぐ電柱に突撃していった。 「…痛い。」 「「えぇ…?」」  額を押さえる彼に、陽と美千代は何とも言えない声を出した。





 

御曹司とハーレム

 小堀拓翔は必修単位を落として留年した5年生。言い訳をすると、不真面目だったとかではなく、単位を取り直すのをすっかり忘れていたのだ。そんな彼は陽の数少ない友人の一人である。  彼が陽に出会ったのは、この単位の為だけに留年するとか、と自身の馬鹿さ加減に凹んでいた時だった。  講義室で、初めて彼を見た時、「良いじゃん!すごいじゃん!」と底辺だった気分が一気に上昇し、拓翔は美しい人に駆け寄った。あとで後輩に「あの時の先輩尻尾振ってる犬みたいでしたよ。」と大変失礼なことを言われたが気にしない。拓翔は心の広い人間だから。でもそれからそいつは合コンには誘わないことにした。  それから、彼を餌にして女をつろうとと合コンに誘いまくったが、ことごとく断られた。合コンなんかに行かなくても女には事欠かないからだと思って、誘い方を変えて、「俺のために来てくれ!」などとと言ってみたが、やはりだめだった。  付きあい始めてすぐに、彼が見た目によらずとっつきやすい性格をしていると分かった。見た目は綺麗すぎて近寄りがたいやつだが、性格は穏やかで、しかも友情に飢えた寂しいやつだった。だから、合コンも頼み込めば来てくれるんじゃないかと思ったんだけどな…  陽がたまにケータイを見てすごく嬉しそうにしているのが分かった。誰からかかかってきた電話にとてつもなく甘い声で話しているのも聞いた。「うん、じゃあね。美千代。」なんて言うから名前まで把握してしまった。美千代ちゃん、ね。 「おまえさ、恋人いるなら言っとけよ。そしたら合コン誘わなかったじゃん。無駄な労力~」  通話を終えた彼にいそう言うと、彼は瞬きを二回して、慌てた様子で手をバタバタさせる。そんな彼を見て怪訝な顔をする拓翔の両手を握って言った。 「…もう、終わりですか…?」  眉を寄せて悲しそうに呟く彼。意味が分からない。 「はあ?」 「恋人いたら、もう話しかけてくれませんか…?」  これまで、しつこく合コンに誘う拓翔に、陽は嫌な顔をしたことが無い。合コンの話は流しながらも拓翔自身のことは歓迎していた。自分で聞くのもどうかと思ったが、「なんで?」と一度聞いてみたことがある。そうしたら彼は「壁をつくらないで話しかけてくれるだけで嬉しい。」なんて笑うから、自分を過小評価する奴なんだな、と呆れた。しばらくして、それが過小評価どころかナルシストが入ったセリフだと認識し、別の意味で呆れた。  で、この時、陽が拓翔が話かけてくる目的が、合コンだけであると思っていることが判明した。俺が、それだけのために近づいて、そのためだけに友人のような行動をとっていると。  確かに、初めは利用するために近づいた。でも、最初は誰だってそんなものじゃないか。友達は選べというだろ?だから選んだんだ。それから、一緒に過ごすうちに、世間ずれしてて結構天然なところとか、割と何でも許してくれたり細かいことにこだわらないような緩いところとか、猫騙しに毎回騙されるような馬鹿なところとか知って。ちゃんと友達になったつもりだった。  拓翔の手を握って、不安そうに見つめてくる彼の、金色に輝くの瞳が柔らかく美味しそうな水菓子のように潤んでいる。それを見て拓翔は息をつめ、鼻に皺を寄せる。 「はぁー……、――いま、お前俺を信者にしかけたぞ。」 「え、やだ!」 「じゃあ、手を離せ。それから――合コン諦めねぇから。」  合コンとか誘わなくなっても関係ない、友達だろ?  なんて、全身が痒くなるような台詞は言えなかった。  陽は恋人の存在ばれたその日に拓翔に美千代を紹介した。本当はずっと紹介したかったんだって。何だそれ。  拓翔は美千代という名前から、陽の相手が女性であることを疑わなかった。陽の恋人であるのだからさぞかし美人なんだろうと思った。  連れられて行ったバイク専用の駐輪場に居たのは、色素の薄いオシャレにウェーブした髪の男と、大きなタレ目の美少女。やっぱり想像に違わぬ美人だ。 「美千代!幻十郎!」  陽は二人に駆け寄って俺を紹介する。 「聞いて聞いて!俺の先輩で友達の小堀拓翔さんです!」 「よろしく~」  片手を上げて軽く言うと、社交的な笑みを浮かべて男が、 「白鳥美千代です。宜しくおねがいします。」  美女が表情を変えずに無機質な声で 「影木幻十郎です。宜しくおねがいします。」  と言ってきた。あれ? 「美千代さん?」 「はい。」 「幻十郎…くん?」 「はい。」  拓翔はばっと陽を振り返った。 ******  拓翔は、金曜の5限しか学校に来ない。だから、学校内のニュースに必然的に疎くなる。  早くつき過ぎた教室で、近くの席の雑談が何の気なしに聞こえてきた。どこぞの財閥の御曹司が学校でハーレムを作ってるんだとかなんとか。ハーレムの構成員は、正統派美人と不思議系美人とヤンチャ系可愛い子なんだとか。何だそれ、うらやましい。 「何がですか?」  隣でケータイを弄っていた陽が聞いてきた。心の声が漏れていたようだ。 「どこぞの御曹司がハーレム作ってんだと。」  そう返すと陽の目がキョトンと瞬いた。 「小堀さん。」 「なんだよ。」 「それ、美千代のことですよ。」 「え、御曹司って。」 「白鳥です。」 「はあ!?白鳥って、あの白鳥だったのか!?まじで!?俺馴れ馴れしくし過ぎた!?ていうか何、あいつハーレムなんて作ってんの?お前いるのに!?ていうか俺に紹介してよ!」 「ハーレム構成員、俺と幻十郎と小堀さん。」 「は?」  色々混乱してしばし思考が止まった。 「最初は、俺と幻十郎で両手に花だ何だって言われてたのが、先輩が入ってハーレムになりました。」 「俺は女の子がすごく好きです!」 「幻十郎だって、女の子が好きですよ。あれ?好きなのかな?」 「そこあやふやかよ!?」  は~~、と拓翔は長い息を吐き出す。  幻十郎という男は浮世離れした雰囲気を持っていた。目は死んでいるし、表情筋活躍しないし、陽同様何度合コンに誘っても首を縦に振らない。合コンでなくとも普通に告白されいても全部断っているらしい。しかも断る文句が、「付きあう意味が分からない。」「断るのに理由がいるの?」と、相手が可愛そうになるようなものばかり。男とか女と以前に恋なんてしないんじゃないだろうか。 「あ!」  着信の入ったケータイを確認した陽がふわっと嬉しそうに目じりを下げる。拓翔はそんな彼を白々とした目で見た。整いすぎて排他的にさえ映る美貌が、微笑みによってより美しいものになる。それを見てしまった周囲の何人かがきゅっと胸を押さえた。ああ、また彼の友達候補(友達になる可能性は0に近い)が減って、信者が増えた。変顔でもすれば友達できるんじゃねぇの?と思って拓翔は彼の頬を両側から引っ張ってみる。 「!?ひゃ、ひゃに!?」 「っち、崩れねぇな。」  拓翔はつり目がちな目を片方ひくっと震わせて、悪態をついた。 「うぅ…酷い…。美千代に会いたい…会う…。」  酷いと言いつつ少し嬉しそうだ。ドMか。  陽は言って席を立つ。「小堀さんも早く!」と軽く手を引っ張る彼はいつもの笑顔だ。これから先ほどのメールの相手である愛しの美千代のところに行くのだろう。なぜか俺を引っ張って。    駐輪場には美千代と幻十郎が居た。  週最後の授業を終えると、四人で陽と美千代のアパートに行く。今までは陽と美千代がタンデムして、幻十郎は一人バスか電車で行っていたらしい。拓翔が仲間になってからは、幻十郎は拓翔のバイクの後ろに乗るようになった。俺がバイクを持っていたおかげで幻十郎が遊びに来る確率が上がった、と陽は喜んでいるが、二人の愛の巣に一人で行くのが嫌だっただけなんじゃないだろうか。俺らのことをハーレムとか言ってるやつらが居るらしいが、全然違うから。甘々なカップル一組とそのおまけだから。 ******  ペールグリーンの壁で、屋上やベランダの手摺と各部屋の扉、窓枠がこげ茶で統一されたアパートは、可愛らしいが大手財閥の御曹司には少し庶民的過ぎる感じがする。  正直にそういうと白鳥は社会勉強の為なんだと言った。  幻十郎同様、二人も実家から大学へは通えない距離ではないのだが、美千代の家の方針でこのアパートを借りている。それならどうして陽も一緒なのかという話だが、二人の仲は両家に認められたもので、夫婦ならばいっしょに住んでも問題ないだろう、むしろ一緒に住むべきだろう、と共同生活をさせられているらしい。  広くは無い部屋は、大きな窓のおかげで開放的に、厳選された家具小物で形成され、すっきりと落ち着いて見えた。ダイニングの白いテーブルの中央に、白い花が一輪生けてある。壁も家具も白い部屋の白い花だ。 「これ何の花?」 「ニラです。べランダで育てていて、咲いた花が可愛かったから。」 「ふーん。」 「葉っぱを千切るとニラの匂いがしますよ。」 「う~ん。」  想像して、それはこの空間に実に相応しくない匂いに思えた。  ダイニングの奥の居間には、二人掛けのソファが二つと、ローテーブルが二つある。陽と美千代、拓翔と幻十郎で向かい合って座るのがデフォルト。誰かがお茶を淹れて、その後はその時の気分でテーブルゲームをしたり、各自好きなことをしたり、ただのんびりしたり。  今日はのんびりの日のようだ。背と肘掛けが弧を描いて一体化した丸いフォルムのオレンジのソファ、その黒い座面に、美千代が陽の膝を借りて横になる。静かだ。そこで、拓翔はおかしなことに気が付いた。  幻十郎が静かなのだ。  彼との付き合いは短いが、彼が男同士の恋愛に興味があることに気づいていた。だって、陽と美千代の距離が近くなるといつもは濁っている瞳を輝かせ、首に掛けたカメラで激写するのだ。しかし今はその目が死んでいる。 「カメちゃんどうかしたん?」  カメ子のカメちゃんである。拓翔は幻十郎をこのあだ名で呼んだ。顔に似合わな過ぎる名前を呼ぶのを脳が拒否するのだ。  拓翔が彼を覗き込むと、陽と美千代も幻十郎を見る。幻十郎は死んだ目のまま言った。 「別に。ただ…少女マンガが読みたいな、と。」





 

不憫と両手のラフレシア

 カメ子:こんばんは。突然だけど、若林さんは少女マンガって読む?  樹海ガール:本当に突然ですねw読みますけど、どうしたんですか?  カメ子:少女マンガってどういうのが少女マンガなの?  樹海ガール:女の子が主人公で、かっこいい男の子が出てきて、恋愛がメインですかね。  カメ子:少女マンガみたいな恋って具体的にどんなの?  樹海ガール:えー…作品によって色々ですけど…  カメ子:そっか。じゃあ、何で女の子は少女マンガが好きなの?  樹海ガール:他の人のことは分かりませんけど。私は恋をしてる感覚がすきですね。きゅんきゅんします。その人の笑顔を見ると泣きそうになって、目が合ったらあっぷあっぷ!(*∩ω∩*)///  カメ子:良く分からない。  樹海ガール:えー  カメ子:もうちょっと具体的にお願い。  樹海ガール:えー、じゃあ可愛い子のギャップに萌え~ですかね。  カメ子:それは男視点じゃないの?  樹海ガール:違いますよぉ、可愛い男の子のギャップに萌えるんですよぉ/// まあ、これは本当に個人の趣向ですけど。萌えポイントなんて人それぞれですし。  カメ子:う~ん…  樹海ガール:でも春香先輩も同じこと言ってました。  カメ子:そっか。ありがとう。  樹海ガール:いいえ、こんなのでお役に立てたのかどうか。  カメ子:まあ、ただの雑談だから。忙しい時期にありがとう。勉強頑張って。  樹海ガール:いえいえ、良い気分転換になりました^^それでは ******  三反田巧太郎の周りはいつも華やかだ。親友の光は美人だし、光経由で仲間になったグループのみんなも何かしら派手だし、グループから出ると何故か美少女二人に挟まれる。  羨ましいと思う?華やかな連中に囲まれたら自分は霞むのに?美女二人が興味があるのは巧太郎でなく巧太郎の周りで、弘太郎自身のことは腐った話をする相手だとしか認識していないのに?    補修帰りのファミレス。奥まった席で、若林春香が巧太郎の肩に凭れて鼻歌を歌っている。女の子らしい甘い香りがする。ふわふわの髪が首に当たってくすぐったい。これが若林さんでなければとても嬉しいのに。 「ご機嫌だね、春香ちゃん。」  向かいに座る千春が言った。 「ふふふ、昨日影木先輩から連絡来たんですよぉ。」  春香から出た名前に千春の動きが一瞬止まった。  その反応にあれ?と思う。影木幻十郎は二人の所属する腐海森の会(世にも恐ろしい腐女子腐男子の会合だ)の会長だ。彼から連絡と言えば彼女たちの餌になる腐ったネタでも貰ったのかと思ったが、いつもハイテンションな反応が無い千春を見るに事情が違うらしい。  最近彼女は少し変だ。いつからおかしいのかを考えて、巧太郎が先日、影木幻十郎と石松成人の勉強会の観察に付きあわされ、巧太郎を利用して二人が彼らに接触したことを思いだした。今まで観察者だった腐女子たちが当事者になったのは何故だろう。 「山瀬さん、影木さんと何かあったんですか。」 「何もないよ!」  巧太郎が聞くと彼女は頬を淡く染めて目を伏せる。 「『少女マンガみたいな恋とは何か』って聞かれたんですよ!影木先輩、少女マンガみたいな恋してるんですかね。もしかして、ナルさんですかね!?二人の出会い、良く考えなくてもすごく少女マンガですよ!?きゃあ、影木先輩マジヒロイン~!!」 「あはは、もう春香ちゃんてばぁ…」  楽しそうに話す春香と対照的に千春はどんどん表情が大人しくなる。一応笑ってはいるが眉が下がっているし、言葉は尻つぼみに小さくなった。心なしか髪の跳ね具合も大人しくなった気がする。 「ちょっと、若林さん。」  慌てて春香を止めようと彼女を見ると、派手な話し方とは裏腹に穏やかな表情をしていた。 「…でも、千春先輩だって。負けてないですけどねぇ。」  ああ、この顔知ってる。なんでもお見通しの魔女の微笑だ。 「影木くんとナルさんの出会いはドラマチックかもしれませんけど、影木先輩、千春先輩が重いもの運んでるときには手伝ってくれるし、普段から気を使ってくれるし、生BL観察だって言ってデートまがいのことしょっちゅうしてるし、極めつけに男に迫られてるのを助けてくれたこともありましたよねぇ?」 「え、何それかっこいい。」  というかやっぱり二人はそういう事なのか。 「中学の時なんてみんな二人はつきあってるものだと思ってたみたいですよぉ。」 「え、それはうそだよ!」  俺にばれても良いのかなぁ、と巧太郎は思うのだが、二人は気にした様子もなく話し続ける。何だろう、本当に俺のことなんて空気か背景だと思っているんじゃないだろうか。いや、春香は寄りかかってくつろいでいるから舞台装置か。 「本当ですよ~。それで何でしたっけ?この前デートの時は木から降りる時に手をかしてもらって、頭にかぶった砂埃を払ってもらって、クレープのクリームが指に付いたのを拭き取ってもらったんでしたっけ?」  どんな状況だ。 「で、デートじゃないよ!」  巧太郎的にも木に登ったり土ぼこりを被る状況になるのはデートではないと思う。 「そういうことにしておきましょう。」 「う~~、…で?」  千春は肩を縮こめて唸ると、瞳だけ動かして上目使いに先を促す。 「で?」 「春香ちゃんは影木君に何て言ったの?」 「ああ、少女マンガの話ですか。笑顔を見ると泣きそうになって、目が合ったらあっぷあっぷ。って言っときました。」 「良く分からない。」  巧太郎はそう言うが、千春は春香の答えにうんうんと頷いている。巧太郎に分からないのは少女マンガを読んだことが無いからだろうか、男だからだろうか。 「はい。影木先輩にももっと具体的にと言われました。」  そうだろう。 「だから、可愛い子のギャップ萌えだ。と言い足しました。」 「…?」  これには千春も疑問を顔に浮かべるが、 「千春先輩、ギャップ萌えですよね。」 「ふぁ!?」  続く言葉に顔を赤く染めて、ポニーテルと跳ねた横髪をピンと逆立てる。 「影木先輩の萌え、見れると良いですねぇ?」  そんな彼女に、春香は図書館で巧太郎に向けたものと同じ笑みを向けた。  ファミレスを出ると、きらきらと光り輝く金糸の髪が目に留まる。ふわふわさらさらのそれに包まれた白い面、青い瞳、チェリーピンクの唇。 「光!」  巧太郎はその人、巧太郎の親友(巧太郎の自称)の藤本光に飛びついた。 「こんな風に会えるなんて運命だね!強い絆で結ばれてるね!」 「うわ、巧太郎。」 「巧ちゃん!」 「はいはい、巧ちゃん。うざい。」  巧太郎はワンコのように懐くが、相手はつれない。別にこれくらいで気にするような巧太郎ではないが、わざとしゅんと項垂れたふりをする。その頭を光が引き寄せて、鼻を埋めた。 「な、なに!?」  突然のデレに巧太郎が慌てると、すぐに離される。ああ、もっと味わいたかった。  離れてからもドキドキそわそわ落ち着きのない巧太郎を放置して、光はう~んと首をひねる。 「巧太郎って、たまにお菓子じゃない甘い匂いがするよね。」  巧太郎の趣味はお菓子作りだ。だから良く甘いにおいをさせている。しかし、今日はお菓子なんて作っていないし、持ってもいない。それにお菓子以外の甘い匂いなんて身に覚えが… 「三反田くん、私たち帰るね。」 「ばいばーい。光くんもばいばーい。」  千春と春香が手を振って去っていく。 「…あー、ね。」  それを見て光が何かを察した。 「違うよ!?違うからね!?俺は光一筋だから!」 「嬉しくないし。うざいし。別に誤魔化さなくても良いのに。」 「待って、やだ。納得しないで!」  俺の状況を羨ましいと思う?派手なグループにいて、女の子二人に挟まれて。違うよあれは花じゃないんだよ、ラフレシアなんだよ。光の俺への愛が腐臭で枯れちゃうよぉっ! 「やーだー!待ってぇ!!」  振り返りもせずにずんずん歩いて行く光に小走りで付いて行く。足の長さが違いすぎて光が大股で速足になるとこちらは走らなければならない。ずるい。 「あの、その子困ってるみたいだから。――って、あれ三反田くん。」  無視されてもめげずに追いかけていると不意に後ろから声を掛けられた。先日勉強会に参加していた石松成人の友人だ。巧太郎は名前を覚えていない。  巧太郎が止まると、振り返った光が巧太郎の肩に手を添えて引き寄せる。 「ごめん、実は仲が悪いわけじゃないんだ。それより久しぶりだね、雅彦。」  光の言葉と行動に、巧太郎はぶわっと歓喜に頬を染めて彼に抱きついた。 「光…!!好き好き、大好き!!愛してるぅっ!!」 「うざい。」 「つれない、でもそれが良い!」 「…きもい。」  二人のやり取りを見ていた雅彦(そう言えばそんな名前だった)が、黒縁眼鏡の奥のどんぐり眼をパチッと瞬く。 「ああ、もしかして元気っ子か。」 「ふぁ!?突然の身ばれ!」  元気っ子とはmmSm…というチャットサービスで巧太郎の使っているハンドルネームである。驚く巧太郎に光が彼を紹介してくれた。 「巧太郎、こちらベリショでどんぐりの人です。」 「巧ちゃん!」 「巧ちゃん、こちらベリショでどんぐりの人です。」  ベリショ、どんぐりと言われて、すぐにその人が光の現彼女に振られて、その後なんだかんだで二人の彼氏をゲットしたが、それまでの一部始終を実況された可哀そうな人だと思い当たる。 「公開処刑された人だ!ご愁傷様です!」 「あ、うん…」  彼は巧太郎の言葉にひくりと口元を歪めると、じわじわと頬を染めていき、両手で顔を隠してしまった。 「ばか。」   巧太郎の頭を叩いた光は笑いを堪えて面白い顔をしていた。 ******  カメ子:私、カメ子。今自宅にいるの。  元気っ子:何してんですかwwてか珍しいですね。個人的に話しかけてくるの、いつもグループじゃないですか。  カメ子:うん。ちょっと聞きたいことがあって(神妙)  元気っ子:は、はい。何でしょう(ゴクリ  カメ子:巧太郎君って光君のこと本気で好きなの?  元気っ子:大好きです!!  元気っ子:あ、友達として!!  カメ子:恋愛感情は  元気っ子:無いデス。普通に女の子が好きデス。  カメ子:ふ~ん…  元気っ子:これ以上腐の餌食にはならない。彼女欲しい。  カメ子:作れば?  元気っ子:何ですか。何で作るんですか。粘土ですか。  カメ子:モテると聞いた。  元気っ子:kwsk  カメ子:いつも女の子と一緒にいるって。  元気っ子:それかよ~~!!俺の知らないところに俺のこと好きな娘がいるのかと、甘酸っぱい想いを抱えている娘がいるのかと!!!  カメ子:二人とは何でもないの?  元気っ子:無いです!  カメ子:ちなみにどっちがタイプ?  元気っ子:腐女子お断り!  カメ子:ふーん  元気っ子:というか、あの二人俺のこと男だと思ってませんよ。今日も俺に寄りかかったまま俺放置で話してましたし。家具か何かと思ってる。  元気っ子:あ  カメ子:ふーん…  元気っ子:若林さんが!俺に寄りかかってくるの若林さん!  カメ子:僕何も言ってないけど。  元気っ子:わ、ごめんなさい!なんでもないんです!俺勉強に戻ります( >_<;)!!  カメ子:ちょっと!  巧太郎はチャットを閉じてどきどきと煩い胸を押さえた。 「うひゃー!これ、探りでしょ!!」  少女漫画なんて読んだことはことはないけれど、自分は今少女マンガの登場人物になっているのかもしれないと思った。





 

三馬鹿とギャップ萌え

 6年前、やっとクラスにも馴染んできた中一の夏。幻十郎は被写体を探して、空き教室や体育館裏など、呼び出しに使われそうな場所を周っていた。そして、講堂の裏でその音に出会った。  暑い夏、講堂とフェンスに挟まれた長細いスペースは、木陰になって少しひんやりしていた。講堂の低い位置の窓が開いて、そこを通る風が足元を吹き抜ける。  講堂では吹奏楽部が秋の大会に向けて練習をしていた。素人目にはなんの問題もない演奏が途中で止められる。 「ストップ!!山瀬さん!!そこもっと丁寧にできないの!?音が繋がって間抜けになってる。」  女生徒の厳しい声に、空気が緊張した。 「は、はい。すみません。」  良く通る声がそれに答えた。 「ひとりでそこから弾いてみて。」  すぐに聞こえてきたのは、バイオリンの旋律。力強く、それでいて優しい力の湧いてくるような音だった。しかし、その音もすぐに止められてしまう。 「ストップ!そこが違うって言っているのよ。今日は違う場所でそこだけ練習してなさい。あなた一人のせいで全体の練習を遅らせるわけにはいかないから。」 「すみません…」 「謝って欲しいんじゃないのよ。邪魔だから出て行って、て言っているの。」  しんと静まりかえった講堂で、道具を片づける音だけが聞こえる。しばらくして再開した全体演奏は、途中音が乱れても最後まで通して行われた。  それから、彼女が全体練習に戻れたかは知らないが、彼女のあの音はそれからも聞こえてきたからバイオリンを続けていることは確かだった。中休みも、昼休みも、その音が聞こえると足を止めた。いつも場所が違うのはどうしてだろう。  彼女の顔を覚えたのは2年の夏。白砂利の眩しい中庭で、学園のプリンスと一緒に昼食をとっているところを見つけた。プリンスが「山瀬さん」と呼ぶのを聞いて、彼女があの山瀬さんなのだと知った。  彼女、山瀬千春と友人関係になってすぐの大会後の代替えで、千春はコンサートマスターに選ばれた。  なんでも、千春は入学当初から力があり、そのせいで一部の先輩にきつく当たられていたらしい。幻十郎が見たのも公開処刑に近い嫌がらせの場面だった。それでも、言われていることは間違っていないからと、彼女は言われた通りに練習を続けた。時折くじけそうになっても、場所を変えて気持ちを入れ替えて続けた。そうして誰にも文句を言わせない実力を身に着けた。2年に上がるころには先輩も何も言えなくなり、次は彼女が最高学年になる。演奏だけではなく、彼女の人間としての力が選ばれたのだと後輩の若林は嬉しそうに言った。  千春が合コンに行くと聞いて、こっそり付いて行った。千春は男の一人にしつこく絡まれて、迷惑そうだった。でも、まわりは盛り上がっているし、自分にそう見えるだけで、彼女はまんざらではないのかもしれない。  しかし、千春がトイレに行っている間にチャットが更新された。彼女からのSOSだ。  どうやって助けようかと考えていると、男が席に居ないのに気が付いた。慌ててトイレに向かうと、入口の前で男が千春の腕を掴んで迫っていた。  幻十郎の惚れた音を出す右手が、そんな風に掴まれているのが許せなかった。だから、彼女を助け出して、手を撫でながら大丈夫かと尋ねた。  彼女は大丈夫だというから、安心してその腕を抱いた。良かった…、と自然と言葉を漏らすと、彼女が頬を染めて「心配してくれてありがとう」なんて言うから、これからも守らなくちゃ、と思った。荷物を運んでいれば手伝って、段差があれば手を差し伸べて、埃を被れば払って、髪が乱れれば整えた。 「影木先輩は山瀬先輩を宝物みたいに扱うんですねぇ。」  いつか若林が言った。宝物のように扱っているのだからそう見えて当たり前だ。幻十郎は、趣味の合う友人として、尊敬する演奏者のファンとして、右手を守るナイトとして、彼女の一番近くにいた。  それが最近、異なる大学に進学してから、距離が離れた。代わりに、巧太郎が彼女と近くなった。それにいらいらして、もしかして自分は彼女の音だけでなく彼女自身が好きなんじゃないかと考えた。 「気づくの遅いですよ!!」  ダン!と成人がテーブルを打ち鳴らした。裕介と真琴がおっと、と自分たちのパフェを持って庇う。  成人、裕介、真琴、雅彦、幻十郎の5人は、勉強会の休憩に、カフェの窓側の席でお茶を楽しんでいた。 「それで、なんで少女マンガ?」  パフェを持ったついでに食べながら裕介が聞いた。 「少女マンガみたいな恋がしたいって、千春ちゃんが前に言っていたんだ。それで、若林さんに聞いたら、千春ちゃんの趣向としては可愛い男の子のギャップに萌え~、なんだって。」  幻十郎が答えると真琴が雅彦にしな垂れかかって言う。 「雅彦のギャップは可愛いのに男前ってところだな!」 「真琴のギャップは完ぺき超人っぽいのにけっこう馬鹿なところだな!」  真琴が言うのに裕介が被せてきたので、真琴は失礼なその頭を叩いてやった。 「お前ほどじゃねぇよっと!」 「痛い!」  二人のやり取りを見ながら成人が顎に手を当てて、うむ、と唸る。 「裕介のギャップは……ないな。」 「無いのかよ!何かないのかよ!!」 「えー、だって甘いもの好きなのも声が高いのも頭足りてないのも見た目のままっていうか…」 「ひどい!石松が苛める!石松なんか、女みたいな顔して声低いし、お高く留まってそうなのに好物おにぎり~~!!」  裕介が雅彦に泣きつくと、成人は「料理下手もいれよう!」と握り拳を作る。 「「「それは見たまま。」」」  他3人の声が重なった。というか、自分で料理下手というのか。 「僕はどうすれば良いんだろう…」  幻十郎が呟くと、成人が身を乗り出す。 「可愛い子のギャップ萌えを目指すんでしたよね。幻十郎さんは元が『可愛い』から始まるから、あとはギャップを見つけると。」 「でも『可愛い』からギャップを作ったら可愛くなくなるんじゃ…」  幻十郎の言葉に今度は真琴と裕介が拳を握る。 「いや、そんなことないでしょ。可愛い子は何しても可愛い。」 「雅彦は何をしても可愛い!」 「…俺より裕介の方が可愛いと思うんだけどなぁ…」 「ま、雅彦!」  可愛いと言われた裕介は、喜びに頬を染めて雅彦を見つめる。 「俺、甘いもの得意じゃないし。」 「「コーヒーブラックで飲む雅彦カッコ可愛くてキュンキュンする!!」」 「眉も太いし。」 「「男前可愛い!そこが良い!」」  雅彦の台詞に被せる勢いでハーモニーを奏でる裕介と真琴。コンビネーションばっちりだ。 「馬鹿じゃないし。」 「俺はバカってか!?」 「「馬鹿だろう。」」  今度は裕介の言葉に雅彦と真琴がハモリをきかせた。 「僕に言わせたら三人ともバカなんだけど。」  一通りやり取りが終わったのを見て成人が言った。  気を取り直して、成人は幻十郎に向き直る。 「僕たち幻十郎さんのことまだ良く知らないから、ギャップも思いつかないんですよね。もっと身近な人に相談してみたらどうですか?」 「僕、今まで『恋愛に興味ありません』って感じできてたから、なんか言い出しづらくて…」 「これって、結局少女マンガ好きな女の子と両想いになりたいんですよね。」 「そう。」 「僕の思う少女マンガって両想いなんですよね。」 「?」 「告白されたからとりあえず付きあってみる、とか。恋人が欲しいから作る、とかじゃなくて。お互いに好きでどうしようもなくて付きあう、みたいな。それまでの過程も含めて。」 「う~ん。」 「だから、あっちに好きになってもらうのも大事ですけど、こっちの好きが何となくあっちに伝わって、あっちの好きも何となくこっちに伝わって、あとは乙女のときめくシチュエーションでドキドキしてもらって…少女マンガにしようとすると順番が訳分からなくなりますね。」  成人が頭に浮かんだことをそのまま口に出すが、うまくいかなかったらしい。それを雅彦が引き継ぐ。 「いや、でも。影木さんは今までずっと彼女に紳士的にアプローチできていたと思う。場面は変だけど。」  それに真琴が頷いた。 「まあ、意識させて脈が無かったらどうしようもないくらいには長い年月一緒に居るよな。」  一人ついて行けない裕介が首を捻る。 「ん?つまり?」 「「乙女のときめくシチュエーションでドキドキしてもらうのが最初だ!」」  成人と真琴が同時に言った。なんだかんだ成人もちゃんと3人の仲間に入っている。 「なんで?」  真琴は席を立つと、理解できない裕介の後ろに回って、耳元で囁いた。 「裕介は本当にお馬鹿さんだなぁ。」  湿った吐息の多い低音ボイスを直にねじ込まれて裕介の肩がびくっと縮こまった。 「ま、真琴はなんでそんなに無駄にエロいんだ…っ!?」  これは悩んでいる幻十郎に対するご褒美か。ごちそう様です。  真琴はそのまま裕介が逃げないように手で顎を固定し、耳に吐息を吹き込みながら説明する。 「もう基本的な良い人アプローチの段階は終わり。次は少女マンガ的シチュエーションで好きアピールをして意識させる。それで向こうも好意を持ってたらそういう態度をするだろ?」 「も、持ってなかったら、ァッ…?」  二人の視線がカメラを構える幻十郎に向けられた。彼女が僕にどうしても好意を持たなかったら、か。その時は―― 「――その時は、友達に戻ろうかな。」 「だそうです。」  通常テンションに戻った真琴が裕介を開放して席に戻る。裕介は「鳥肌~!!」と言いながらしきりに耳と腕をさすった。 「具体的にどうしよう。今までと同じじゃダメなんだよね。」 「いやぁ、やってることは良いんですけどね。もっと彼女のためにって感じが欲しいですね。例えば、BL観察じゃなくて、デートとして遊びに行くとか。」  成人の案に幻十郎はう~んと唸る。 「それ、いきなりだとハードル高いよ。」 「でも、僕には他に思いつきませんよ。あとは普段やってることを徐々にグレードアップすることですかね。指に付いたクリームは布きんで拭うんじゃなくて舐めるとか。」 「…セクハラじゃない?」 「じゃあ、逆に意味の無いことするのはどうですか?」  雅彦が言った。 「たとえば?」 「理由なく手を繋いだり、理由なく名前を呼んだり。」 「裕介。」 「ん?」  真琴が話を聞きながらもパフェをぱくつく裕介の名前を呼んだ。というか、この二人、食べるのが早い。 「呼んだだけ。」 「なんだよー。」 「裕介。」 「ん?」 「好き…」 「おまえら、俺を挟んでいちゃつくな。」  雅彦が両隣の二人の頭を叩いた。裕介は冤罪だ。 「まあ、とりあえず意識させるなら普段と違う事しなくちゃですよ。」 「…分かった。」  幻十郎は成人の言葉に頷く。  とりあえずの結論が出た所で、ほっと息をついて、窓の外に視線を移した。ら、目が合った。  巧太郎の手を引いて楽しそうに歩く千春とばっちり。幻十郎に気づいた千春はパッと彼と繋いでいた手を離すと、ぎこちなくこちらに手を振ってきた。それに幻十郎が応えられないでいると、代わりに成人が大きく手を振り返す。 「これは、悠長なこと言っていられないですね…」  彼はそう言って不敵に笑うと幻十郎の手をとって一緒に振らせた。





 

猫嫌いとお祭り

 ピンポーン  チャイムの音が鳴ると、グレーの猫はひょいと靴箱に飛び乗り、ドアスコープの上に取り付けられた台に飛び移る。そこから逆さまにドアスコープを覗くと、綺麗な額を潔く晒した青年、小堀拓翔が立っていた。  台から靴箱に戻り、上体を伸ばしてドアノブを掴み。片手で器用に鍵を回す。こちらの返事を待たずにドアがひかれて、猫はドアノブにぶら下がったままお客様と「こんにちにゃん」した。 「おじゃましまー…?」  小堀は玄関を開けたらいる筈の部屋主が見えず、困惑する。 「にゃん。」  ついで聞こえる筈の無い小動物の声を確認し、恐る恐る確認すると、毛並の良い猫がぶら下がったままこちらを見ていた。 「ぎゃぁぁああああ!!!!」  住宅街に高い悲鳴が反響する。ドアから手を離して後ずさるとばねの効いたそれはゆっくりと閉まっていく。さようなら猫、俺の天敵。 「小堀さん!?どうかしたんですか!?」  拓翔が空を見上げて茫然としていると、普段ふわふわした優しげな声で話す陽が鋭い声で駆け寄ってきた。 「ね、ねこ、ねこが…っ!」  小堀は彼の部屋へつながる鉄の扉を震える指で指示した。 「にゃー!」  陽が玄関を開けるとグレーの猫が待ってましたと嬉しそうに鳴く。その声を聞いて拓翔は陽の背中で「ひっ」と息を詰めた。 「にゃー…?」  今すぐ飛びついてじゃれつきたい!といった様子だった猫は、怯える拓翔の姿を見て大人しくなる。随分利口な猫だ。 「小堀さんアレルギーですか?」 「あ、アレルギーはねぇけど、苦手なんだよ…」  拓翔はどこかに行けと、目で訴えるが、猫は自分の背後と陽の顔を交互に見て、その場をうろうろし始めた。猫が陽の方つまり拓翔の方を向くたびに拓翔は「ひっ」と悲鳴を上げる。それを見た猫は悲しそうに「ナー…、ナァ…」と鳴いて、耳をペタンを折ってその場に座り込んでしまった。 「小堀さん、ミィ君俺と一緒に居たいだけなんで、ちょっとそのままでいてください。」  陽が小堀に言い置いて猫を抱きあげる。「ナァ…」とまだしょぼんとしている猫に頬を寄せて耳元で囁いた。 「ただいま。寂しかったの?」 「ナァ…」 「小堀さんに怖がられて悲しかったの?」 「ナァー…」  すこし大きな声で鳴いた。  陽は悲しそうに鳴く猫の額に口づける。 「小堀さんは猫が苦手なだけでミィ君が嫌いなわけじゃないんだよ?」 「ナァー」 「それは分かってる?でも寂しいの?」 「ナァー」 「小堀さんどうしましょう。」 「何が。」  まさか、その猫のために仲良くしてくれとか言ってくるんじゃないだろうな、と拓翔は身構えるが、陽は予想を裏切って鼻を押さえてこういった。 「ミィ君が可愛すぎて鼻血でそうです。」 「いや、なんでだよ!」 「ミィ君暖かい、柔らかい、もふもふ、可愛い。俺のこと大好きなの可愛い。今戸惑って尻尾たしたししてるの可愛い。寂しそうな鳴き声可愛い。もう全部可愛い。かわいいかわいいかわいい」  猫を抱きしめて切なげに眉を顰める彼。日本人にあるまじき金色の目が震える睫毛の奥でうるうると輝きを増して、白い頬と唇が紅をさす。その姿は大変麗しいのだが、 ――こいつヤバい人だった。  拓翔は猫から逃げるために鉄の扉に合わせていた背をより強くそこに押し付けた。こ、これ以上後ずされないだと…!? 「てか、その猫どうしたんだよ。あと、白鳥は?」  気力を振り絞って拓翔が聞くと、陽は潤んだ瞳のままこちらを見てきた。その目でこっちを見るんじゃない。うっかり信者になるだろう。 「この猫は…美千代の家の猫…俺の猫…?で、たまにここに来るんですよ。」 「預かってるのか。」 「じゃあ、それで。」  じゃあ、それでって… 「あと、美千代は急用ができました。」 「え、マジかよ。あいつが祭り一番楽しみにしてたじゃん。」  今日拓翔が彼らのアパートに来たのは今日開かれる祭りに行くのに、彼らに浴衣をかりるためだった。そしてその祭りに行こうと言い出したのは美千代。御曹司でありながら庶民派な彼は祭りというものが大好きなのだが、今年の夏は海外に旅行に行ったり何だりでまだ一度も行けていなかったらしく、とても楽しみにしていた。 「代わりにこの子が行ってくれます。」  そう言って陽がこちらを向いて猫を掲げるので、拓翔はまた短く悲鳴を上げて玄関扉にどんと背を預ける。 「ナァ…」  猫よ、そんな悲しげな声で鳴かないでくれ。どうしたって、苦手なものは苦手なんだ。 「…迷子とかなんねぇの?」  というか、猫が代わりに行っても、美千代は行ったことにならないだろう。 「基本的に俺から離れないから大丈夫です。それより早く仕度しちゃいましょう。ミィ君は嫌がってる人にじゃれたりしないから大丈夫ですよ。ねー、ミィ君は今日は俺に抱っこだもんねー。」 「なー?」  おい、なんかその猫きょとんとしてるけど大丈夫か。 「小堀さん、赤白橡と梅幸茶と青白橡と蒲葡、どれにします?」  居間に上がると、赤みにくすんだベージュと、茶色がかった緑、緑がかった灰、紫の浴衣が紙(たうと紙という名称を拓翔は知らない。)の上に、畳まれて出してあった。 「にゃー」  陽の腕から降りた猫が一着の浴衣の前で尻尾をたしたしさせた。 「ミィ君は青白橡が似合うって言ってます。」 「分かるのかよ!?」 「ミィ君、俺はどうしようか。」 「にゃー」 「蒲葡?」 「にゃ!」 「なんで会話が成立してるんだ…」  こうして猫の意向により二人の浴衣が決まった。 「小堀さん、下Tシャツとか着ます?俺は胸にミィ君入れるんで着ますけど。」 「暑いからパス。てか、猫抱くとか暑くね?」 「ミィ君だから良いんです。暑いのよりミィ君と離れるほうが嫌です。」  着付けの間猫は部屋の隅でそっぽを向いて大人しくしている。陽の言った通り本当に拓翔には近づいてこない。 「小堀さん、ちょっと襟がだぼついてますね。直しますね。」 「ひゃっ…!」  いきなり陽が脇から手を入れてきたのに、思わず声を上げると、その声に驚いたのか、猫が耳をぴくっと動かしてこちらを向いた。そのままこちらに近づいて来ようとするので、拓翔は後ずさる。 「にゃー!にゃー!」  猫はそれ以上近づいてこなくなったものの、その場で尻尾をばしばし床に叩きつけて、大声で鳴いた。 「ミィ君、やましいことしてないよ。」 「にゃー!」 「なに、俺嫉妬されてるの?」 「はい。」 「そもそもお前白鳥とできてんじゃん。」 「美千代は良いんです。」 「にゃー!!」 「ごめんねミィ君、着付け終わったからおいで。」  陽が腕を差し出すと、すぐに猫が飛び込んだ。そのまま慣れた仕草で胸元に潜り、襟から顔を出す。 「カンガルーみてぇ。」 「にゃぁ!」  大好きな陽に抱かれて猫はご機嫌に鳴いた。 ******  祭囃子が聞こえると、猫はアップル・グリーンの瞳をキラキラと輝かせた。 「小堀さん、やりたいこととか食べたいものあります?」 「あー、やっぱ祭りと言ったらかき氷だろ。」  拓翔はすぐ目の前にあった屋台を指さした。 「ブルーハワイください!」 「俺はイチゴかなぁ、ミィ君もイチゴで良い?」  拓翔は一人で、陽は猫と一緒にかき氷を食べようとしたのだが、猫はしゃりっと一かじりすると「にゃぁぁああ~…」と体を震わせて陽の胸元に潜ってしまった。 「俺あとチョコバナナ食べたい。」 「ナァ?」 「ミィ君は食べられないね。」 「あ、そうか。」 「でもミィ君はりんご飴が好きだもんね。」 「猫ってりんご食べんの?」 「少量なら。」 「好みまで把握してんのな。」 「もちろんです。」 「ままー!ネコちゃんだよぉ!」 「あらほんとねぇ。」 「ワンちゃんじゃなくてネコちゃんだよぉ!」 「ね、あんなに大人しい子珍しいわねぇ。」  親子が陽の胸元から顔を出す猫を指さして言った。もともと陽は人目をひく容姿をしている。猫を抱いていたら尚更だ。すれ違う人はもれなく二度見してきた。妙に居心地が悪い。 「キャンキャン!」 「ニャンッ!」 「わっ!」  犬を抱いた女性とすれ違うと、猫は陽の頭に昇って毛を逆立てる。 「ミィ君、もういないよ。大丈夫だよ。」  陽は猫のお腹を持って頭から下ろした。 「ニャン。」  なされるがままに、ぶらんと銅を伸ばす猫は本当に大人しくて、今なら拓翔にも触れる気がしてきた。 「よ、陽。ちょっと触っても良い、かな…?」 「はい!優しく撫でてあげてください!」 「どこ、触ったらいいかな?」 「頭なら問題ないですよ。」  言われた通り恐る恐る頭に手を置くと、そこからは猫の方からスリスリ額を擦りつけてきた。 ――すごい、ふわふわ、あったか、やわらか…!! 「ミィ君、可愛いでしょう。」 「おう。」 「あげませんよ。」 「…おう。」  拓翔は猫に触れることに成功した。 「にゃーん、にゃーん」  拓翔は嬉しそうに鳴いてすり寄ってくる猫になんだか気恥ずかしくなって視線を逸らす。 「猫だから肉とか食べるよな。あ、でも味が濃いとダメなのか?」 「ミィ君は普段の食事きちんとしてるので、多少はめを外しても大丈夫です。」 「じゃ、じゃぁ俺ちょっと買ってくるわ!」  一緒に行くのに、という陽の声を無視して拓翔は速足で屋台に向かう。何だあれ、可愛すぎるだろうミィ君…。  ミィ君の好きそうなものを買い込んで二人に合流すると、先ほど仲良くなったはずのミィ君は犬に会った時と同じように、陽の頭に昇って威嚇してきた。 「え、何でだ!?」 「小堀さん、もしかしてその中イカ焼きあります?」 「ある。」 「ミィ君イカ嫌いなんですよ。」 「マジかよ。」 「イカ処理したら元に戻りますよ。食べちゃいましょう。」 「おう。」  イカを食べてしまうとミィ君は定位置に戻ってきた。頭を撫でても怒らない。唐揚げ、焼き鳥、牛櫛、と一口づつ口元に持っていくと、美味しそうに頬張って、タレの付いた拓翔の指まで舐めてきた。何これ愛おしい。それを見て陽が微妙な顔をしたが、嫉妬か?おい、こいつは猫だぞ、猫。  そんなやり取りをしていると、視界にとても気になる物が飛び込んできた。 「え!?」  驚いてそれを追おうとすると、背中に暖かいものが飛びついてきた。 「ニャン!」 「小堀さん、行っちゃいやですって。」 「か、かわいい…っ!!じゃなかった。あれ、あれ!」  拓翔が指さす先には、可愛い女の子と二人で祭りを満喫する幻十郎の姿が。しかもその彼…女物の浴衣を着ている。 「なん…だと…?」  陽とミィ君はそろって、大きな目を見開いた。





 

王子様とデート

 幻十郎:明日お祭りがあるんだ。  千春:うん。影木君の大学の近くだよね。  幻十郎:藤本陽と白鳥美千代のニャンニャンカップルがデートをするらしい。  千春:あらあらあら  幻十郎:見守ろう。  千春:集合は?  幻十郎:6時に駅で  千春:OK  幻十郎:木を隠すなら森の中。僕は浴衣を着ていくから、千春ちゃんも浮かないように祭りらしい服装で来てね。  千春:おお!美少年の浴衣楽しみ!  そんな会話をチャットでした翌日、甚平姿の千春は待ち合わせの駅で彼を待っていた。そして「二人を見守り隊」を結成した春香と巧太郎と成人は別の柱の影から彼女を覗き見る。 「解説します!」  キャスケットと色つきメガネで変装した春香がさらに雑誌で顔の半分を隠しながら言った。 「山瀬先輩の今日の服装。黒い甚平にキャメルのショルダーバッグ。どちらも男物、おそらく双子のお兄さんのものと思われます。そしていつも通り高い位置で一本に結んだ髪。洒落っ気はありません!」 「彼女、普段もっとオシャレだよね?」 「今日こそ攻めるべきだったんじゃ…」  ピンクのブレードの帽子と縁の太いメガネで変装した成人と、キャップ帽とマスクで顔の半分を隠した巧太郎の疑問に、春香は神妙な顔つきで応える。 「いえ、これは寧ろ攻めています。」 「その心は。」  断言する彼女に成人が合いの手を入れる。 「山瀬先輩は影木先輩とナルナルが少女マンガ的展開になっていることに焦りを感じています。」 「ほう。」 「影木先輩をストーカーから助けたナルナルは影木先輩の王子様です。影木先輩はお姫様です。山瀬先輩は影木先輩の王子様の座をナルナルから奪い取ろうとしているのです!」 「ほう。」 「いや、影木さん的にそれってどうなの。」  巧太郎が水を差した。 「三反田君。」 「はい。」 「細かいことは気にしなくて良いんです。二人が円満になれば良いんです。」 「はあ。」  巧太郎は例のごとく春香に引きずられて参加している身である。恋愛ごとにも疎いし、彼女がそう言うならきっと良いのだろう。 「――ごめんね千春ちゃん、待った?」  透き通った高めの少年の声が千春を呼んだ。待ち人幻十郎の登場だ。見守り隊の三人は彼の姿を認めると、「ふお!?」とそれぞれ驚きの声を上げた。  白磁に紫のナデシコが描かれた浴衣、高い位置で巻かれた薄紅色の帯。おかっぱ頭の後頭部をふわふわに巻いて、左の横髪に桃色の毬の髪飾りが揺れる。現われたのは誰もが見とれる和服美人。 「影木さん~~!?」  巧太郎が仲の良い先輩の予想外の姿に目を白黒させた。 「こ、これは…影木先輩、攻めましたね…」  千春がごくりと唾を飲む。 「美少女じゃん!!」  思わず成人が叫んだが、実は彼女の服装はひまわり柄のワンピース。貴方も十分美少女です。 「か、か、か、影木君!?」  キラキラと効果音が付くような、美少女と見紛う姿で現れた彼に、千春は胸の前で手を組んで身悶える。なんて…なんて可愛いの!! 「おかしいかな?」 「むしろ違和感なさ過ぎておかしいよ!?」 「可愛くない?」  こてんを首を傾げる幻十郎。表情が無いのに不安そうに見える。あざとい。 「かわいいですぅぅうう…っ!!」  千春は彼を直視できずに頭を抱えた。 「それで、早速行こうと言いたいところなんだけど…ごめん。今日の計画は中止です。」 「え!?」  しかし、彼の言葉にすぐに頭を上げる。 「実は白鳥に急用ができて二人のデートが中止になったんだ。」 「そうなんだ。」 「と、言う訳で今日は僕と普通にデートしてください。」 「え!?」 「…だめ?」 「いえ、喜んで!」  再び首をこてんと傾げた幻十郎に千春は握り拳で答えた。  無数の屋台の明かりを反射して、死んだ魚のような目と称される幻十郎の瞳にも光がさした。彼は自分よりわずかに背の低い千春の顔を覗き込む。 「手、繋いでいい?」  聞きながらそっと手の甲を撫でると、彼女はタレ目の目じりを赤く染めて頷いた。  そっと手をとって、指を絡める。これまでも足場の悪い場所などで手を握ったことはあるが、こうして手を繋ぐことを意識したのは初めてだ。指を絡めた繋ぎ方をするのも初めて。幻十郎は大好きな音を生み出すその指を、壊さないように優しく包み込んだ。 「……な、何だかお腹すいちゃった!」  二人の間に流れる甘い空気を誤魔化すように千春が口を開いた。 「じゃあ、何か適当に食べようか。」  込み合う道の中央から端に避けて、二人でチョコバナナを食べる。千春は隣の幻十郎を仰ぎ見た。  ――ほんとに女の子にしか見えないな。あーあ、こうやってせっかく影木君が着飾ってきてくれたのに、私、ぜんぜん王子様できてない。 「どうかした?」  幻十郎に声を掛けられて、千春は慌てて俯いてしまっていた顔を上げると、彼の口元にチョコレートが付いていることに気が付いた。千春はそれを指で拭うと、そのまま自分の口に運び、舐めとる。大きなタレ目を見開いた巧太郎が一瞬で顔を赤く染め上げた。 「甘いっすね。」  ライダーのお面を後頭部にかぶり、フランクフルトを食べながら巧太郎が言う。 「僕も熊に会いたくなってきた。」  ヨーヨー片手に綿あめを食べながら成人が言う。 「熊って何ですか?」  輪投げの景品のお菓子詰め合わせを片手にソフトクリームを食べながら春香が聞く。 「彼氏。」 「「ああ、彼氏…て、彼氏いるの!?」」  成人が答えると二人はそろってくどい反応を返した。  巧太郎はともかく春香は成人の彼氏とやらの話を根ほり葉ほり聞きたいところなのだが、観察対象が行動を起こしたのでそうもいかない。 「あ!影木さんが千春さんの手を握った!」 「いくか、いくのか!?」  無表情ながらどこか切羽詰った様子で春香の手をとる彼の姿に、三人の視線に熱がこもる。しかし、そこに突然男が割って入った。男を見た成人が焦りを声ににじませる。 「どうしてあいつが。」 「幻十郎!」  聞き覚えのあるその声に、幻十郎はびくっと身を縮めた。 「え、誰?」  千春は突然の乱入者に疑問を口にするが、幻十郎は青ざめ強張った表情で男を見ている。 「影木君?」  ただ事ではないと感じ、千春は彼の肩を引き寄せ、男から遠ざけた。 「…お前、なんで…」 「何ではこっちの台詞だよ。どうしてそんな恰好してるの?すごく可愛いね。でも、俺以外に見せないで欲しかったな。」  幻十郎に男は爽やかに笑いながら返すが、気味悪く弧を描いた目と奇妙に皺の寄った口が、それを作り笑いだと知らせた。 「ねぇ、その子誰?」  はっとした幻十郎は自分の背に千春を庇う。 「お前に関係ない。」 「関係あるだろ?俺はお前に告白したよ?」 「僕は断った。」 「どうして?なぁ、どうして?」  張り付けたような笑顔のまま男がにじり寄ってくる。 「ひっ…」  同時に後ずさった幻十郎の背が千春にぶつかる。カタカタと震える彼の手を握り、千春は走り出そうとした。その時、 「「邪魔してんじゃねぇっ!!」」  前後から現われた影により、男はその場に沈んだ。 ****** 「これは、デート?だよな?」  拓翔は、隣でミィ君と戯れる陽に確認する。 「ですね。」 「なんでカメちゃん女装してんだ。」 「俺に聞かれましても。」  建物同士の狭い隙間から顔を出す二人と一匹。その視線の先では、美千代と陽の誘いを断った幻十郎が、歩道の端でタレ目美人と並んでチョコバナナを食べていた。 「おお!女の子大胆だな。」  女の子が幻十郎の口元を拭うのを見て拓翔が声を上げる。 「にゃー」 「ね、俺達に内緒なんて水臭いよね。」 「にゃ?」  ミィ君も反応したので陽が答えるが、ミィ君はキョトンと大きな目で彼を見あげた。こいつらは意思疎通ができているのかいないのか良く分からない。  そのまま二人と一匹が彼らを観察していると、男が幻十郎に話しかけてきた。 「あーあ、良い雰囲気だったのに。空気読めよ。」  呑気に言う拓翔に、緊張した面持ちの陽がミィ君を手渡した。 「小堀さん、ミィ君お願いします。」 「は、え、おい、ちょっと!?」  彼はそれだけ言うと、男に殴りかかって行った。 「「邪魔してんじゃねぇっ!!」」  陽の拳を鳩尾に、成人の足技を後頭部に受けたストーカー・中村は、ごきっと鈍い音をさせてその場に崩れ落ちた。 「藤本!?ナル!?」  中村を取り押さえる二人に、幻十郎は驚いて呼びかける。 「山瀬せんぱーい!!」 「影木さん!!」  ついで現われたお互いの後輩に抱きつかれて、混乱しながらも安心した。 「うわぁぁぁあああ!?」  幻十郎が息をついたのも束の間、聞こえてきた悲鳴に緊張していた体が跳ねる。 「ミィ君!?」  すぐに駆け出した陽の後を追うと、建物同士の狭い隙間で、オシャレウェーブな髪型の青年・美千代が釣目と短く釣った眉が可愛らしい小柄な青年・拓翔を押し倒していた。 「美千代!」  陽は美千代の脇に手を差し入れ立たせると、頬を撫でながら話しかける。 「どうしたの?今日は早かったね。祭りで気分上がったからかな?」  言われた美千代は頬を染めて目を逸らした。 「~~っ!美千代可愛い!!」 「「キャッ…っ」」  陽がたまらず彼を抱きしめると、状況を理解できないながらも春香と千春が歓喜の声を上げる。 「…お前さ、猫に甘すぎないか?」 「美千代だからだよ。」  腕の中で美千代は拗ねた声を出す。それに、また「可愛いなぁ」と陽は頬擦りした。 「なに!?なんなのこいつ!?」  拓翔は突然現れた美千代を指して言う。しかし美千代が答える前に中村を引きずった成人が聞いた。 「ねぇ、これどうするの?」 「それはこっちで処理するから幻十郎と山瀬さんはデートに戻って良いよ。」  陽の言葉に幻十郎と千春はそろって顔を赤く染める。 「で、デートって…っ、そういう訳にもいかないでしょ。被害者不在じゃ…」 「被害者は俺ってことにするよ。複数人が被害にあっていた方が、大勢がちゃんと危険性を認識するでしょ。」 「でも…」  幻十郎が食い下がるが、周りはそれに尖った声で答えた。 「女物の浴衣まで着て来たこと、無駄にしないで下さい!!」 「もー、幻十郎さん。我まま言わないでよ~」  なにそれ理不尽。 「えー…。じゃあお言葉に甘えても良いかな。」  拓翔以外が一斉に頷く。 「千春ちゃん、行こ?」  手を繋いで歩き出した二人の背を6人の生暖かい視線が見送った。 ****** 「どこに行くの?」  デパートの奥へと進んでいく幻十郎に千春が聞いた。 「これから花火が上がるんだ。」  エレベーターに乗り込むと、最上階のボタンを押す。  そこから階段を使って屋上に出ると、大きな音が体中に響き、光の花が空いっぱいに広がっていた。 「ここ、良く見えるでしょう。」 「…すごい」 「本当は立ち入り禁止なんだけど、ここ白鳥の系列だから特別。」  ヒカリの粒が幻十郎の白い肌と、千春の小麦色の肌を虹色に染める。花火の音が大きくて、視界も埋められて、千春も幻十郎も、ただこの花火を見るためだけに存在しているような気持になった。  最後の花火が燃え尽きて、白い煙と火薬の匂いが寂しく残る。爆音になれた耳には小さすぎる祭囃子が、遠くで聞こえた。 「「結局、全然王子様になれなかったな…」」  同時に言って二人は顔を見合わせた。 「千春ちゃんはお姫様でしょ?」 「だって、影木君女物の浴衣着てるから…」 「これは可愛さアピールのつもりで妹に借りたんだけど…じゃあ、仕切り直すね。」  幻十郎はフェンスの近くまで千春の手を引き、そのまま背の高いそれに彼女の背を押しつける。カシャンと金属の擦れる音が響いた。 「次はギャップでしょ。」  ふっと笑った幻十郎は、千春の顔の両脇に手をついて言う。 「好きです。僕と恋人になってください。」 「は、はい…!」 ――影木くん、可愛いのにかっこいい!  千春は苦しいくらいに高鳴る胸をぎゅっと押さえた。 「じゃ、まずは交換日記から。」 「…!」  籠バックから可愛らしいノートをとり出した彼にまた胸を打たれる。 ――影木くん、やっぱりかわいいいいいい!  感極まった千春の瞳からぽろぽろ涙が溢れだした。 「ち、千春ちゃん!?」  慌てて涙を拭おうとする彼がまた可愛すぎて、千春はその顔を胸に抱き込み、顎で旋毛をグリグリした。 「ひ、やぁ…っ!?」  そうすれば千春の予想通り彼は可愛い声を上げる。彼の旋毛が性感帯なことは中学の時に判明済みだ。 「や、やめ…っ!破廉恥ぃ…!!」  千春が満足して開放するころには彼の方が涙目だった。





 

後日談

 ナチュラルベージュの木材を隙間を作って組み、ガラスの板でふたをしたローテーブル。その上に置かれた4つのティーカップからレモンティーの爽やかな香りが漂う。家主の美千代は、テーブルを挟んで置かれた2つのソファの一つの端に身を寄せて、居ずらそうに余所を向いた。  拓翔はその横顔をじと目で見つめる。  ミィ君=美千代。美千代の説明によると、彼の守護霊が猫で、その猫と相性が合わないために穢れをうちに溜めてしまい、それに耐えられなくなったとき、彼は最終手段で猫になる。  その穢れを陽は払うことが出来るため、普段は猫になる前に対処していた。しかし、祭りの日、たまたま穢れの塊に遭遇してしまい(それって悪霊じゃないのか?何それ笑えない)猫になってしまったのだという。  守護霊が何だか知らないが、人が猫になるなんてそんなバカな話しんじられるか。そう思うが、実際この目で見てしまったのだから信じないわけにはいかなかった。 「カメちゃんも白鳥のこと知ってたのか?」  涼しい顔でお茶を啜る幻十郎に、美千代の横顔を見ながら小堀は聞いた。 「はい。ミィ君可愛いですよね。猫になるといつもより感情が素直になるの。仲良くなれました?」  仲良く?そりゃもう仲良くなりましたとも。猫嫌いの自分がそれを苦服してしまうほどに愛らしく甘えてきたこいつに絆されましたとも。 「おまえ…あれ、おまえって…」  拓翔がぶつぶつとぼやくと、美千代の横顔が耳まで赤く染めあがった。そんな彼の肩を、隣に座った陽が玩具の猫じゃらしでぺしぺし叩く。 「陽!!」 「うふふ、ミィ君も美千代も可愛い。」  美千代が怒るのに、その反応を見て陽が楽しそうに笑う。リア充爆発しろ。  拓翔は難しいことはいいや、と無理やり自分を納得させた。 「お前はどうなんだよ。彼女とあの後どうなったんだよ。」 「ああ、無事おつきあいすることになりました。」  拓翔の問に幻十郎はいつもの表情に乏しい顔で、斜め上の答えをくれた。 「で、交換日記をしています。」 ****** 「巧太郎君、先輩たち交換日記から始めるらしいよ。」  巧太郎が登校するとすぐに春香が話しかけてきた。 「それも少女マンガっぽい事なの?」 「それは偏見だよぉ。」 「間違ってるの?」 「本人たちが良いなら良いんだよぉ。」 「ふーん。」  鞄を掛けながら会話をすると、春香は背に隠していたノートを胸の前で掲げた。 「巧太郎君、私たちもしない?」 「え」 「交換日記。」 「え!?」  突然のアプローチに巧太郎が赤面すると、春香は満足げに笑った。 「良かったじゃん。なんでそんな険しい顔してるの?」  昼休み、机に置いたノートを睨む巧太郎に、光が言った。 「いや、だってあの若林さんの交換日記だよ?何を求められれることやら…」 「純粋に巧ちゃんと仲良くなりたいんじゃない?彼女が書いたのはもう見たの?」 「…怖くて見てない。」 「見よう。」  彼に促されて恐る恐るページを捲ると…  9月30日  担当:・:,。゚・:,。☆゚ 春香 ・:,。゚・:,。☆゚  今日のキブン:(`・ω・´){今日も元気!  GOODニュース:家の近くにコンビニができたよ\(・∀・)ノ  BADニュース:消しゴムが厚紙のところで折れちゃった(´・ω・`)  ☆巧太郎君との交換日記一日目!☆  今日は早速新しいコンビニ行ったら店員さん二人が仲良し(●´ω`人´ω`●)でうふふな気持ちになったよ!一人は新人さんで手取り足取り教えてもらってて可愛かったwwもちろん両方男の人だよ(`・ω・´)キリッ!コンビニ店員ネタで一本描きたくなっちゃった(*∩ω∩*)///その時はまた作画手伝って欲しいな。O.゚。(ゝω・☆人)。O.゚。  次の担当は三反田君!藤本君との『じゃれ愛』とか書いてくれたら嬉しいな(⊃ω・⊂)チラッ 「…」 「…」 「…純粋に巧ちゃんと仲良くなりたいのかもしれないじゃない…?」  ねえ、光?本当にそう思う?  巧太郎は頬を引き攣らせてノートを閉じた。


少女マンガ的恋愛<完>