私が誰より一番、すーきよ


 こんなに、貞子はこんなに好きなのに。どうして貴方は見てくれないの。どうして気づいてくれないの。藤本光様。どうして、青木にばかり構うのですか。ま、まさかそいつのことを…。…許さない。そんなこと、許さない!青木隼人、――呪ってやる!  「わーん!隼人ぉ。寒いー、さーむーいー!」 「うおっ!光!?いきなり跳び付いてくんな!離れろ!」 「やー。」 「やーって、おまえ…。て…っ、ひゃっ!?おま、どこに手入れてんだよっ!」 「シャツ。」 「ぎゃー!冷てえから放せ!――っふ、…ぁあっ、っわ、脇腹を撫でるな!!」 「あはは 」  じゃれてますネェ。可愛いですネェ。クラスのみんなが生暖かい目で見てますよ。しかしその視線の中に殺意を込めたものがいた。――貞子だ! ******  嫌がらせパート1 『おまえはもう死んでいる』  ふっふっふっふっふ、はーっはっはっはっは!やってやる、殺ってやるぞ!手始めにこれだ。この花瓶に生けた花をおまえの机に飾ってやろう。教室に入ってきた時の反応が楽しみだ!死人のような扱いを受けて顔色を無くす姿。良いじゃないか、良いじゃないかっ!キャッフー♪  がらっ  教室に入るとそこには――学級委員長がいた。 「って、えええええええ――!?」 「あらー?貞子さん、おはようございますですわー。今日は早いのですわー。」  早いのはあんただ!今七時だぞ、七時!無いわ~。 「お、おはよう千晶。あなたこそ早いのね。」 「そうかしらー?いつも六時半には教室で勉強しているのですわー。わたくし寮生で二人部屋だから、朝早くから五月蝿くすると同室の方に迷惑をかけてしまうのですわー。」  どんなだよ!とゆうか同室私だ! 「そ、そうなの。大変ねぇ、お勉強。」 「好きでやってる事なのですわー。それより、そのお花綺麗ですわー。きっと、先生喜びますわー。」  花は教卓へ。  嫌がらせパート2 『極寒の地で凍えよ』  まさか学級委員長があんなに早起きだったとは…。先の失敗はまあ良い。次は成功させてみせる。休み時間のうちに奴の長袖ジャージは隠した。長袖ジャージの無い奴は半そでで体育の授業を受けるしかなくなる。寒いぞー、寒いぞー。ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ! 「うー、寒っ!」 「隼人、何で上着てないの?」 「上着がねーんだよ。持ってきたはずなんだけどなー。」 「寒い?」 「この鳥肌が見えないのかよ。」 「僕、さっき走ってきたから体ぽかぽかなんだよ。」 「?」 「だからー…。温めてあげるーっ!」  がばっ 「うおあ!?おまえはまた…。」 「暖かいでしょ?」 「…まあな。」  な、な、な、な、なななななーっ!!青木隼人、貴様なんて羨ましい、いや、なんて破廉恥な!寒さを理由に光様とそんなに密着するなんて――っ!!  この作戦、逆効果。  嫌がらせパート3 『男子が好きな女子にするあれ』  作戦が裏目に出てしまった。だが、私は失敗を成功に繋げる女。どうしたら光様と奴の仲を引き裂けるのか……ふふふふふ。今度こそは成功させる! 「…あれ?」  光は鞄を開け、首を傾げた。  がらっ 「隼人―。」 「なんだ、光。二組は次音楽で移動教室だろ?速く行かないと遅刻すんぞ。」 「僕のリコーダーがない。ちゃんと持ってきた筈なのに。」  光が俯く。長いまつげが頬に影を落した。 「ったく、しゃーねーな。俺の貸してやるから。無いよりはましだろ。」 「わーい!ありがと、さすが隼人!」  隼人が鞄を開ける。そこには、 「…リコーダーが、二つ?」 「あ!僕のリコーダー!」  光が大きく澄んだ瞳で見つめてきた。 「な、俺じゃねぇぞ!…誰かが俺の鞄に…!」  必死に否定するが光にはどうでも良いのか、 「良いよどっちでも。隼人なら。」  と言うと自分のリコーダーを持って出て行ってしまった。 「…ど、どういう意味だ――っ!?」  貞子と隼人がハモった。  嫌がらせパート4?『日記じゃない』  その日の夜、貞子は机に向かっていた。ものすごい速さでペンを進める。瞳に怪しい光を。口元に薄い笑みを浮かべて…… 「ぬうぉおおおおおおおおっ!!なんじゃごりゃぁあああああ――っ!?」  早朝に響く叫び声。昨夜貞子は日記を書こうとした。だがしかし、思い浮かぶのは作戦の失敗ばかり。プッツンした貞子は気が付けばもう朝?の勢いで書き殴った。…なにを?  「ん?なんだ?」  隼人が廊下を歩いていると、一冊のノートが落ちていた。誰のだろう。そう思い中を覗くと、そこには自分×光の官能小説が。隼人、硬直。すると後ろから腕が伸びてきて、ひょいとノートを取られてしまう。 「ひ、光!?」  隼人からノートを奪った光は、やけにじっくりとそれを読み進める。 「隼人。」  光はノートを閉じると、不意に呼びかけられ、どきまぎしている隼人に、にっこりと微笑んでこう言った。 「これと同じ事、受け攻め逆ならやっても良いよ?」  このやり取りを物陰から観察していた貞子は胸がきゅーんとなった。  ――何?何なの、このトキメキは!?  二人の関係に萌えを見出した貞子は、その日から隼人と光、二人の追っかけとなった。そして隼人は光と距離を置きたいと思った。  作戦成功?  冗談なのに~。 by光