喧嘩中の誕生日
「四六時中見張られてたら息が詰まる!」 「こっちだって仕事なんだよ!」 誕生日前日、青木隼人はボディーガードの白鳥千晶と喧嘩をしてしまった。 「で、そんなに落ち込んでるの。」 「落ち込んでねぇよ。」 「僕の部屋に来るくらいには悩んでるくせに。…居心地悪いんでしょ?」 寮は三人部屋であるが、風呂、トイレ、リビング、キッチンは共同ながらも個人の部屋もちゃんとある。 ここは光の部屋。兎のぬいぐるみでいっぱいの可愛らしいこの部屋は、確かに居心地の良いものではない。 「てゆうかさ、同じボディーガードの僕が四六時中一緒にいるのは耐えられるのに、どうして千晶ちゃんは駄目なの?」 「お前はそういうキャラだろう。」 「じゃ、キャラじゃないことしてる千晶ちゃんだって辛いんじゃないの?」 「それは…」 「千晶ちゃんはあれでも新婚さんなんだよ?ホントだったら旦那さんとずっと一緒にいたいだろうに、好きでもない男を四六時中見張ってるだなんて…辛いだろうな~。」 「ぐう。」 光はにやにや笑いをひっこめ、唸る隼人に母親が手のかかる子に向けるような優しい笑顔を向けると、その頭をポンポンと軽く叩いた。 「千晶ちゃんのこと、本気で嫌なわけじゃないんでしょ?だったら大丈夫。すぐに仲直りできるから。」 その頃、千晶は。 「あっした明日は誕生日♪あっお木隼人の誕生日♪――ふふふふふふふふふふふふふふふふ…」 暗い部屋、コンピュータの光により顔だけ青白く照らされた千晶の含み笑いは大層不気味で、同室の影木貞子は――泣いた。 本日は青木隼人の誕生日。ここに用意したるは一枚のCD。え?中身は何かって?何を隠そうこれは俺の技術を惜しむことなく発揮したドラマCD! BLドラマCDを俺の開発した音声合成プログラムで極限まで隼人&光に似せた声で吹き替えたものなのだ! えー…、千晶さんご丁寧に説明ありがとうごございます。 さてさて、そうこうしている内に隼人君が登校してきたようだ。 「お誕生日おめでとうございますですわ。こちら、誕生日プレゼントなのですわ。」 「――っ!千晶、お前…」 ――なんて良いやつなんだ!喧嘩中の俺に誕生日プレゼントを用意してくれるだなんて…っ! 「お前、本当は俺のこと気にかけてくれてたんだな。…昨日さ、光に言われたよ、お前だって辛いんだよな。昨日は酷いこと言って悪かった。お前の気持ちをもっと考えるべきだったんだ。ほんと、ごめん。」 ――あれ、謝れちゃった。どうしよう、CD。今更返せとか? 「あのさ、そのCD実は…」 「ありがとな!すっげー嬉しい!」 ――あああああああああ…っ!!! 夜、寮に帰った隼人は、早速CDをかけた。 大樹が茶を噴き出した。光が腹を抱えて笑った。 「千晶―――――――っ!!!」 青木の叫び声が響いた。 ****** おまけのカラス君 僕はカラスくん。光りものが大好きなんだ。良くカラス除けのCDだって集めてるんだ。あ、あそこにCDが、 「あ、こらカラス!そのCDは…っ!」 もうぼくのだよ。 今日もCDをゲットしたよ。って、あれは――ブルーレイ! あれ、CD落としちゃった。ま、いいや。待ってて僕のブルーレイ! 「痛い!何でCDが空から…。」 その日貞子は狂喜乱舞した。 ――これは神様からのプレゼントよ!