泥沼っしぐら 番外編


 

ポッキーゲーム

 11月11日、スーパーもコンビニもポッキーフェアが行われる。もしかしてハロウィンよりもメジャーな行事なんじゃないだろうか。私立白鳥高校の購買でもそれは例外ではなく、割安になった商品にポッキーの風船が付いてきた。  山田太陽は甘いものよりしょっぱいものが好きだ。しかしその日、彼女はしょっぱい芋のスティックではなくポッキー極細を手にとった。ポッキーは、細くて長い。極細はより細くて本数が多い。  スラッとした体型に、しゅっとした面立ち。長身にすっきりしたシルエット。太陽はモテるすこぶるモテる。しかしそれはあくまで同性からだ。その点彼女は男から見られる容姿に自信は全く無い。そんな太陽だが、実は男の恋人がいる。太陽とは逆にとっても可愛らしい顔立ちの天使みたいなやつだ。  彼は、今日が何の日か知っているだろうか。  昼休み、屋上に向かうか迷う。昼食メンバーは田中・佐藤・鈴木。知ってのとおりできたてほやほやのカップルだ。このメンバーに自分が入って行って良いものかと思う。 「ちょ、やめて。山田さんが居なかったらこいつらに何をされるか分からない!」  と、田中。 「別に太陽が居てもイチャイチャしますし。」  鈴木。 「問題ありませんし。」  佐藤。 「「むしろ見せつけたいですし。」」  二馬鹿。  という事だから別に良いのだろうが…イベント時は私が嫌だ。  普段だったら目の前で食べさえ合いが始まろうが、乳繰り合いが始まろうが、苦笑いで流せる。自分も光と一緒に食べたいな、とは思っても、彼は毎日のように放課後太陽の家に遊びに来るし、寂しくない。あの幼馴染組が濃すぎるのだ。しかし今日のようにイベントのある日は心持が違う。別にミーハーなつもりは無いが、周りがはしゃいでいれば少しはノりたくもなるし。屋上に行けばどうせポッキーゲームが始まる。  コンコン  そんなことをぐるぐる考えていると、窓を叩く音がした。音の方を見れば、ベランダで、ふわふわの金髪に綺麗な蒼い瞳の可愛い子が太陽を見てにっこり笑っている。 「――は?はぁあ!?」  慌てて窓を開けて下を確認すれば、どうしたってここは3階。しかも西洋の作りで一階づつの縦の空間がたっぷりとした校舎の3階で、普通の日本の建築の5階の高さに相当する。 「ハロー、太陽ちゃん!」 「おま、どうやって…」 「ベランダを梯子して。」 「ベランダは梯子じゃありません!」  太陽の言葉を笑い飛ばすのは、少女の様な見た目で人間離れした身体能力を持つ太陽の恋人、藤本光。まあ、来てしまったものは仕方ない。嬉しくないわけでもないし。 「一緒にご飯を食べに着ました!」  懐きながらはしゃぐ光は可愛いし。 「え、山田さんの彼女?」 「そうだよ、文化祭にも来てたもん。」 「いやぁ、ショック!」 「山田の奴、本命いるなら他の女に色目使うなよぉっ!」 「山田は色目とか使ってないだろう。」 「写真撮ってばらまけ!女子に周知させろ!」  しかしここは騒がしい。  昼休みは結局屋上に行った。幼馴染組はやっぱりポッキーを買っていた。太陽もポッキーの袋を開けている。しかし、誰もポッキーゲームなんて色気のあることはしなかった。二馬鹿?あいつらはポッキーのおまけの風船でチャンバラしてるよ。  放課後、届いたメールに慌てて走り出す。校門前で光が待っていた。 「一緒に帰ろ!」  語尾に音符とハートが付きそうなテンションで飛びつかれる。 「お前、学校は?」 「終わってから急いで来たの!」  にこにこ笑う彼が可愛くて、天使の輪っかを持った、ふわふわで艶々の頭を撫でた。  一緒に帰ろうと言った光の隣で、ポッキーを食べて、何本か彼にもあげる。  いつも通り彼を家に誘った。お茶を出して、お茶請けはやっぱりポッキー。朝から少しづつ食べたそれはもう残り少ない。  ポリポリポリポリ。  最後の一本になって、光が言った。 「ポッキーゲーム、しない?」  太陽は無言でポッキーの端をくわえて彼に差し出した。  大きな目を更に見開いて、桃色の頬が赤く染まる。色が白いからすごく目立つ。そっちが誘ったくせに、これだからダメなんだ。  光は、何処から見ても可愛くて、小さなころから今まで、いつ見ても可愛くて。でも、太陽にだけ見せる男の顔は大人びて、色っぽくて、見るたびにずるいと思った。でも、もっとずるいのは、太陽からいった時、こんな風にきょとんとして、顔を真っ赤に染めて、慌てだすところだ。  光はずっと太陽の弟みたいな存在だった。こんな顔をされたら、どうしていいか分からなくなる。そっちから迫る時はかっこいい癖に、こっちからいったら可愛いなんて、困る。  私がポッキーゲームなんて遊びをしようと思った理由。この罪悪感が少しは薄れるかな、なんて思ったわけだけど…  反対側の端を光が咥える。思ったよりしょっぱなから距離が近い。だんだんと距離が縮まる。息ができない。ポッキーは細くてか弱い。数で選んだ極細ポッキーはより細い。これは素直になれない太陽への罰だ。折れないで、と繰り返し心で唱えた。  バンッ! 「姉ちゃん!」  ポキッ 「「「………」」」  太陽と光、乱入した弟が無言で見つめ合う。勢いよく開け放たれた扉がスウッと閉まる。ケータイゲーム機を持った弟がフェードアウトしていった。 ((平助~~!!))  仕方なく折れたポッキーをぽりぽり食べた。 「太陽ちゃん。」 「なに――」  振り向くと唇に暖かい感触。 「チョコ、付いてたよ。」  自身の唇に指を当てて妖艶に微笑む彼に、だからそれもずるいんだって…っ!と、太陽は真っ赤になっているであろう顔を手で覆って悶絶した。 ******  平助「姉ちゃん!ごめん!ポッキー買ってきた!」  太陽「もう無理!」  光「でかした平助!」  太陽「もう無理だって!」


To be continued?